劇場公開日 2022年9月2日

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「自然の摂理には逆らえぬ。」地下室のヘンな穴 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5自然の摂理には逆らえぬ。

2022年9月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

怖い

難しい

最早中年の一組の夫婦が
郊外の一軒家を購入する。
それは初めて持つ、自分達の城。

月々のローンや二人住まいには広すぎる難点はあるものの、
その家が持つ一風変わった特色を気に入ってのコト。

それは、地下に在るマンホール宜しき穴から入ると、
何故か二階の居間に抜け出し、
一連の経緯で十二時間過ぎてしまうものの
(中に入った者にとっては一瞬)、
三日分若返るとの何とも奇妙な効果。

勿論、ここで当然の疑問が。
十二時間の経過は時計で測れるものの、
三日間の若返りはどうやって観測できるの?
結構、眉唾じゃね(笑)。

好奇心から試した夫の方は早々に飽きてしまうも、
最初こそ渋っていた妻は俄然張り切り出す。

歳を退行させるのは、彼女なりの目的があってのこと。
睡眠や家事を放り出し、時間さえあれば穴に入り浸る。
そしてその結果、確かに外見上は若返って見えるのだが、
プラシーボ効果もあるのでは。

それにしても、一歳分を若返るには、
まるまる二ヶ月の時間を無為に過ごしているわけで、
コスパの点からすると、良いと表現できるかは甚だ疑問。

74分の短尺は、脚本のテンポが頗る良い。

特に冒頭部の家の内見の始終と、引っ越して以降の様子を
パラで見せるのは、編集の妙。

また妻の方が繰り返し穴に入るシーンの積み重ねも同様。
外見が変わって行くのを期待し、
度毎に確認する様子は、女心だなぁと理解もしつつ、
若さへの強すぎる憧憬には肌に粟を生じさせもする。

しかし、若返りへの対価は、
十二時間を差し出すだけなのだろうか。

それ以外の支障はホントにないのか?
観る側が疑念を持ち始めた頃、幾つかの事件が起きる。

当然その頃には、妻の若さへの思いは
妄執とも表現すべきレベルにまで達しており。

生き物は須らく老いて行くもの、との
自然の摂理に反した行いへの、警鐘も感じさせつつ、
それを説教臭くなく表現できるのは、
さすがフランスらしいエスプリ。

シリアスな部分はそちらに任せ、
コミカルな部分は知人男性の「電動ペニス」のエピソードに収斂させ。

もっともこちらも、それで快感は得られるの?と頗る疑問に思う。
ましてや、バッテリーやコントローラーが無ければ
まるっきり木偶の棒(文字通り)だよね(笑)。

とは言え、後半部の科白を一切排し、
シーンの積み重ねだけで表現するシークエンスは
モンタージュの極致ではあるものの、不親切な造り。

そこまで急く理由は何も見当たらない。

何れにしろ、家宅の購入時には
十分に留意すべきとの、古来の習わしは尊重すべき。

本作であれば、前の住人は、何故に売り払うことを決めたのか。
買い手は聞かなかったけれど、質問しても、仲介者は正直に応えたろうか。

そして、常とは逆のルート
(居間から入りマンホールから出る)を辿った時には、
一体何が起こるのだろう。

ジュン一