劇場公開日 2022年11月18日

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「誰にもある実存的危機、見ないでいる、見えなくされているだけ」ミセス・ハリス、パリへ行く talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0誰にもある実存的危機、見ないでいる、見えなくされているだけ

2024年10月16日
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鑑賞方法:VOD

笑える

悲しい

幸せ

ミセス・ハリス演じるレスリー・マンビル、後ろ姿の冒頭から「ファントム・スレッド」とまるで異なることに驚嘆した。歩き方、背筋に姿勢、歩くテンポ、着ているもの、前を向いたらヘアメイクも表情も話し方も!すごい俳優だと思った。

つましい生活、有能でやさしい家政婦、でもしっかりしていて前向きで友達思い。ユーモアがあって人懐っこい。この映画を見て私事だが、立体裁断の美しいスカート(確か菫色かラベンダーみたいな)に心ときめいたが一緒に居た父親は買ってくれなかったこと思い出した。

この映画のポイントはミセス・ハリスの言葉に尽きる;ダンサーを見て「大変な仕事ね。掃除には笑顔は必要ないわ」。給金支払いを何度も先延ばしにする「金持ちマダム」に啖呵「私を見下す人に忠誠は誓えません」。そしてシャサーニュ侯爵(ランベール・ウィルソン、適役)に午後のお茶に呼ばれた時。彼が子どもの頃ウェールズの寄宿舎に住み学校に通っていたことを知る。苛められつらかった時代に自分を大切にしてくれた優しい人のことをあなたを見て思い出したと彼女に言う侯爵。その人は「寄宿舎の掃除係のモップおばさん」。ミセス・ハリスは特別に用意してくれたイギリス式お茶もお菓子に目もくれず哀しげに立ち去る。ミセス・ハリスは決しておめでたい人ではない。わかっている。それだけに深く傷つき考えるようになった。

美しく洗練された職場でも働くひとは皆労働者。彼らがどんな家でどんな格好をしてどんな風に過ごし暮らしているのか、誰の目にも見えない。それをずっと見ながら「誰も気がつかない」仕事をしてきた彼女はゴミだらけのパリの街を見てストライキをする彼らを見て、力を得た。

ディオールから送られてきたドレスの色とデザインは見るまで心配でドキドキした。よかった・・・デザインも色も異なっていて。ミセス・ハリスの美しさと優しさをもっともっと引き出していた。

おまけ
ドレスや服、そもそも「洋服」は欧米人体型のためのもの、どんなに逆立ちしても日本人体型の自分に合わないと思っている。カジュアルなもの、デニムも含めてぜーんぶ。悲しい。和服を着ている時だけ幸せで気持ちがよくて自分に満足する。でも毎日着物を着ている訳ではないし着物で仕事に行く勇気も気持ちも自分にはない。この映画を見て100%の幸福感に満たされなかったのはそんなところにある。ディオール・メゾンでのショーのモデルの中に東洋人もブラックの人も居たことにすぐに気がついた、とても嬉しかった。50年代にはあり得ないのにね。今に通じるお話。「年がいもなく」「貧乏人が!」こんな言葉なくなって欲しい。

talisman
CBさんのコメント
2024年10月16日

今と比べると驚くべき為替レートですよね。

凛々しいお婆さんの話、素敵!

CB
りかさんのコメント
2024年10月16日

こんばんは♪共感していただきましてありがとうございました😊

ハリスさん役の方の他作品を知らないのですが。おっとりな雰囲気が、敏捷なイメージに⁇

同じ作品観ても目のつけどころや思うことが違うなぁ、と思いました。あの伯爵ボンボン過ぎて人の内面を知ることができない人でしょうね。悪気無いから困る〜。

りか
Mさんのコメント
2024年10月16日

子どもの頃、仕事をしていた母は、休日だけは着物を着ていました。
私にとってはそれが当たり前でしたが、今思えば、当時でさえ、けっこう珍しかったことのようです。
今のみなさんが着るきれいな着物ではありませんが、普段着の着物という感じでした。
このレビューを読んで思い出しました。

M
きりんさんのコメント
2024年10月16日

こんにちはtalismanさん。
この映画オススメして良かったです♥️
〉日本人にはキモノ。西洋人にはドレス。
これ、わかります。どうしても建物の作りが違うのでね。
靴のままで天井の高い邸宅に入り、殿方とダンスをし、立位で生活する姿がデフォルトとなるためには、西洋では靴からヘッドドレスまでのトータルな装備が必要なのです。そうしないと人間が建物に負けてしまうから。

対して、畳や障子の家屋に住む我々日本人は、正座をしている姿がデフォルト。
暮らしぶりと体型は連携しますからねー。

きりん
humさんのコメント
2024年10月16日

素敵な作品でしたね。
ヨーロッパのあの空気感、こころがひとっ飛び✈️しました。

hum