「しあわせを着飾って」ミセス・ハリス、パリへ行く 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
しあわせを着飾って
第二次大戦後のロンドン。
夫を戦争で亡くしたばかりの家政婦のミセス・ハリス。
勤め先の家で見たクリスチャン・ディオールのドレスに一目惚れ。
何とかお金を集め、ドレスを買いにパリへ行く。
時代も国も性別も違う。ましてやドレスどころか服にも疎い。
そんな私が見ても魅了され、心地よい幸福感に浸らせてくれる。
それもこれも、ミセス・ハリスの魅力や人柄。
言ってみりゃあ、平凡なおばさんが本場の超高級店に赴き、「ドレスを作って下さいな」。
上流階級の人でも常連客でもなく、コネも無い。普通だったら門前払い。
だけどミセス・ハリスの明るく前向きでお人好しな性格が、不思議と周りを惹き付ける。
運もその人の善行と言うなら、その通り。
ドレスと出会ったのは何かのお告げ。
懸賞金に大当たり。
運が重なってパリ行きやドレスが買えるお金が集まる。
当初は門前払いを食らうが、会計士やモデル、侯爵が助けに。
また、ミセス・ハリスの行動力や夢を諦めない気持ちが、周りをも変えていく…。
おとぎ話のような物語。
でも、全てがそうじゃない。
夫を戦争で亡くした悲しみ。一番の心の傷。
お金を増やす為に賭け事を。が、一瞬でスッてしまう…。
支配人の見下しや上流マダムの傲慢。
そのマダムに一番に望んだドレスを奪われてしまい、2番目のドレスを依頼。(しかしこれ、最後の最後に素敵なサプライズに!)
夢のパリを満喫経験し、ついついワインを飲み過ぎてしまい、寸法に遅刻…。
時々凹んだり、失敗する所も我々目線。
だから、そんなミセス・ハリスが憎めない。
出会いがあってこそ。
ミセス・ハリスの親切に助けられたモデルのナターシャ。モデルとして多忙を極めるが、ミセス・ハリスに心を開き、彼女もまた自身の夢を追う…。
会計士のフォーベル。ミセス・ハリスに親切にしてくれたのは現金払いだからかもしれないが、かえってそれが。自分のアイデアあり、ミセス・ハリスに尻を叩かれ…。
密かに惹かれ合う若い二人。その指南役も。
ところが、自身の方は…。紳士な侯爵に惹かれるが…。
若者カップルを結び付けるも、自分は失恋。女寅さん…?
支配人のコルベールがとにかく嫌み。「あなたには相応しくない」「ドレスを買って何処に着飾って行くの?」「あなたは透明人間」…。
美しいドレスを作る人(=お偉いさん)や着る人(=上流階級)が、内面はそれに相応しくない皮肉。
でも従業員たちは別。ナターシャやフォーベルも。
彼らを率いて改革。ストライキ!
確執あったコルベールとも…。
様々な出会い、親切、助け合い、変えてくれた。
終盤、ミセス・ハリスに思わぬ事件が…! あのバカ女!
さすがに落ち込む…。そんな彼女に、夢のようなサプライズ…!
親切と助けと変えてくれたミセス・ハリスに、今度は彼らが無償の敬愛と感謝を…。
レスリー・マンヴィルがチャーミングに好演。誰もが彼女に魅了される。
イザベル・ユペールらパリで出会った人々、ジェイソン・アイザックスら地元の友人、周りも好助演。
旅行気分を堪能出来るパリの美しい風景。
演出や音楽もお洒落。
やはり目玉はドレス。物語やキャストたち、作品そのものを華やかに彩る。
アカデミー衣装賞は本作が受賞すべきだったのでは…?
ちょいと現実離れ。何事も上手く行き過ぎて、ありえないやツッコミ所も多々。
でも、そんな“ファンタジー”な展開さえ許しちゃうこの不思議な魅力。
リアルな作品もいいが、たまにはこんな夢物語に心を委ねてもいい。
…いや、いい事をすれば、いい事がある。
実は、そんなちゃんとしたメッセージが込められているのかも。
出会って、親切に、助け合って、行動力を持って、夢を諦めないで。
しあわせを着飾って。