劇場公開日 2022年11月18日

「野性少女の出会った湿地帯の自然とバイオレンス男たち」ザリガニの鳴くところ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5野性少女の出会った湿地帯の自然とバイオレンス男たち

2023年7月13日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

本作は、米国南部の湿地帯で親の監護も教育もろくに受けないまま成長した少女の一代記でである。エピソードとしては彼女が巻き込まれた殺人事件の公判の行方が中心のようだが、それは添え物で、主に彼女の付き合ってきた2つのもの、バイオレンス男たちと湿地帯の自然との関わりを描いている。

バイオレンス男たちとは、第一に父親、第二に強引に言い寄ってきて彼女を弄んだ若い男性である。この描写に映画はかなりの比重を割いていて、彼らが母親や子供たちをいかに虐待し家族を離散に追い込んだか、婚約者がいるにも拘わらず結婚を匂わせて、いかに性欲のはけ口としたかを延々と描いている。
これは原作者の境遇に近いものがあったせいかもしれないが、別にそこに特殊なものがあるわけではないから、実は映画としては結構退屈させられる。

それより学校に行かなかった彼女に文字を教え、独学の方法を身につけさせ男のおかげで、やがて彼女が自然観察の書籍を何冊も刊行できる教養を身につけていく過程の方が遥かに面白い。
その根底にあるのは湿地帯での、水と魚や貝、鳥たちに囲まれた生活、ムール貝を採って売っては生活費を捻出するという生活、移動は常にボートで行う興味深い風景である。

その2つの中で彼女を弄んだバイオレンス男が死亡したことから彼女に嫌疑がかけられ、公判で真相が追及されるという展開だが、検察側は馬鹿げた状況証拠しか提示できないし、特に意外な事実が出てきたり、証拠がひっくり返ったり…という緊迫したものもなく、さほど惹きつけられはしない。

映画の最後になって、ようやく一つの事実が明らかになってサスペンス風味を添えていて面白い。これはまあ、オマケみたいなものだろうw

徒然草枕