「湿地の自然が彼女に教えた生きる術」ザリガニの鳴くところ ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
湿地の自然が彼女に教えた生きる術
ミステリー仕立ての物語だが、心に強く残るのはDVや社会からの疎外によるトラウマの根深さと、主人公カイアの内に秘めた強さだ。
序盤は殺人の容疑をかけられるカイア、彼女の幼い頃の苛烈な家庭環境といったシビアな描写が続く。テイトとの出会いによるひとときの安らぎ、そこからの無言の裏切り。そして、冒頭でその死が描写されたチェイスが現れる。ちょっと無神経そうな振る舞いと、結果的に死ぬことから考えて、嫌な予感しかせず緊張感が増す。
案の定彼はカイアの父と同じカテゴリーの男だった。こうなるとカイアが殺意を持つ理由は十分過ぎるほどだが、冒頭から心が萎縮するような彼女の生い立ちや湿地の家から出られない臆病さ、純粋さを見ていると、それを行動に移すような人間にはとても見えない。
だが、彼女は湿地の自然に生きる術を教わった少女でもあった。野生の生き物には道徳心がない、必要とあれば手段を問わずただ自分の命を守る。そういった本能が、湿地を友として生きてきた彼女の中に、繊細な心と一緒に自然に共存していたのだ。
それにしても……
公式サイトや予告動画の「結末は正真正銘の衝撃」「最後まで推理が止まらない」という煽り、あれは本当に無粋だ。あれを見ていたおかげで最初から穿った目で見てしまい、最後を待たずに犯人が読めて推理が止まり、衝撃が弱まってしまった。見終えてみれば、本作は犯人は誰かということは一番の主題ではないのに、本来感じなくていいはずの的外れな残念感。
どんでん返し映画の宣伝の難しいところかも知れないが、この作品はそこを売りにしなくても、美しい自然描写やカイアの半生をたどる物語だけでしっかり見応えがあるのだから、最後にびっくりという要素はせめてほのめかす程度にしておいてほしかったかな。そうして心構えなしに見た方が、あのラストから受ける衝撃はむしろ強まったと思う。
サイトや予告を見ずに鑑賞してびっくり出来た人はナイス判断ですよ。
カイアは真実を黙秘し通した。ある意味、幼い頃にも親切に接してくれたミルトン弁護士をも騙し、彼が抱いていたカイアの人間性に対する善意の解釈を利用したとも言える。
裁判の時に問われていた深夜のバス、帽子の繊維、結局あれらは全て的を射た指摘だったということだ。思えば浜辺近くでテイトと会う時から、カイアは足跡を消す仕草を見せていた。殺害現場に足跡などがなかったのは、犯罪者としての知恵というより、野生動物が止め足をするような、本能的な行動のようにさえ思えてくる。
裁判という緊迫の場で真実の証拠を指摘されても動揺を見せず(今思えば、ミルトンにstay calmのメモを見せられなくても彼女は取り乱さなかっただろう)、ノートに落書きするという余裕を見せていた。そして、年老いて亡くなるまで、夫となったテイトにさえ真実を打ち明けなかった。
彼女が隠し持っていたこのしたたかさ。人間社会から、親からさえ見捨てられた彼女が、自然から学んだ生きるための術なのだと思うと、薄っぺらい倫理観などとても語れなくなる。
原作では映画で省略された事件の真実に関する説明もあるようで、そちらも読んでみたい。
ジョニーデブさん、コメントありがとうございます。
前知識なしでご覧になったとのこと、かなり羨ましいです。
その後原作を読みましたが、カイアの育った土地の雰囲気など、映画が原作の空気感を見事に表現していることがわかりました。
ラストは好き嫌いがあるかもしれませんね。
私は予告編も見ず、前知識もなかったので、あのラストはかなりの衝撃でした。猿の惑星のような、衝撃のラストをうたい文句にしたかったのでしょうね。ただ、結局彼を騙していたと言うラストのどんでん返しはないほうがよかったです。純愛映画として感動したままでいたかったです。
変な予備知識やレビュー見なくて良かったなって思ってたら、『ほんまそれ。』ってドンピシャ感想だったのでコメントでした。最近、映画センサーが外れまくってたので自分の力を取り戻せれたって思える作品でした。以前に予告かなんか見て記憶に残ってたんでしょうが配信されて家事のついでに見てたらコレは片手間に見れる映画ちゃうわ!思いました笑 本当映画好きでよかったと思える作品でした。
幸い、前情報は一切なく見ることができました。
けれど、上映中に間に合わず、配信で見ることになってしまいました。
事前の情報をどのような方法でどの程度取り入れるか、というのは、なかなか難しい判断ですね。
信頼のできる人(つまり、自分の感覚にとても近い人)の評価を点数だけで見れるような環境があると幸せなのですが。
本当にその通りです。
この展開なら、「あの人」が犯人であるわけが無い。驚愕なのだから、もしかしたらこの人が犯人なのか?とか、まさに「穿った」みかたしてしまいました。「結局そのまんま」という、別の意味で驚愕です。
面白い映画なので本当に残念ですね。