「最後には心豊かな気持になれる」ザリガニの鳴くところ ジョーさんの映画レビュー(感想・評価)
最後には心豊かな気持になれる
予告を観る限りでは、ホラーサスペンスだと思っていた。
ところが、犯人捜しの謎解きへの期待は、見事に裏切られる。
ノースカロライナの美しい湿地帯で、ひとりの青年の死体が発見された。
湿地帯でひとり暮らす、「湿地の娘」と呼ばれる女性が容疑者に。
そのセンセーショナルなプロローグで、見事に騙されてしまう。
描かれているのは殺人事件ではない。60年代前半のアメリカの格差社会だ。白人の差別の対象は黒人だけではなかったのだ。白人による白人への迫害。容疑者の女性が受けた人権蹂躙、女性蔑視。女性蔑視を裏付ける男のDV。町の金持ちたちの暴挙と空虚。マイノリティはいつの時代でもマイノリティ。
数々の理不尽と魂の救済が、作品の底にしっかりと流れる。
理不尽に立ちはだかる弁護士役は、『ノマドランド』のデビット・ストラザーン。彼の存在なしでは本作は到底語れない。そして湿地帯の大自然と、そこに育まれた容疑者のコラボが結実。その映像美に予想外に酔いしれる。
最初の期待は裏切られたが、最後には心豊かな気持ちになれる。それは絶対保証できる。
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