劇場公開日 2022年11月18日

「最後には心豊かな気持になれる」ザリガニの鳴くところ ジョーさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0最後には心豊かな気持になれる

2022年11月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 予告を観る限りでは、ホラーサスペンスだと思っていた。
 ところが、犯人捜しの謎解きへの期待は、見事に裏切られる。
 ノースカロライナの美しい湿地帯で、ひとりの青年の死体が発見された。
 湿地帯でひとり暮らす、「湿地の娘」と呼ばれる女性が容疑者に。
 そのセンセーショナルなプロローグで、見事に騙されてしまう。

 描かれているのは殺人事件ではない。60年代前半のアメリカの格差社会だ。白人の差別の対象は黒人だけではなかったのだ。白人による白人への迫害。容疑者の女性が受けた人権蹂躙、女性蔑視。女性蔑視を裏付ける男のDV。町の金持ちたちの暴挙と空虚。マイノリティはいつの時代でもマイノリティ。
 数々の理不尽と魂の救済が、作品の底にしっかりと流れる。

 理不尽に立ちはだかる弁護士役は、『ノマドランド』のデビット・ストラザーン。彼の存在なしでは本作は到底語れない。そして湿地帯の大自然と、そこに育まれた容疑者のコラボが結実。その映像美に予想外に酔いしれる。
 最初の期待は裏切られたが、最後には心豊かな気持ちになれる。それは絶対保証できる。

ジョー