劇場公開日 2022年11月18日

「湿地で生きる少女を通して見せるさまざまな物語」ザリガニの鳴くところ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0湿地で生きる少女を通して見せるさまざまな物語

2022年11月20日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

幸せ

不穏な雰囲気が漂う予告で、公開を楽しみにしていた本作。淡々とした展開の中にも惹きつけられるものがあり、最後まで楽しく鑑賞できました。

ストーリーは、湿地で変死体が発見され、殺人の容疑をかけられた、湿地で一人暮らしをする若い女性のカイアが法廷で裁かれる中で、彼女の生い立ちから現在に至るまでの壮絶な人生が明らかになっていくというもの。変死体となったチェイスの死の真相をめぐるミステリーの体を装いながら、カイアと彼女のよき理解者であるテイトとのラブストーリーでもあり、湿地の自然を堪能する記録映画のようでもあり、当時のアメリカの差別社会への戒めのようでもあり、さまざまな楽しみかたができるのが本作の魅力です。

冒頭で発見された変死体の死の真相をめぐるストーリーではありますが、前半は事件よりもカイアの人生そのものに興味を惹かれます。年端も行かない少女が両親に捨てられ、湿地で一人で生き抜くなんて、とても現実的とは思えません。しかし、これまでの記憶や経験を頼りに、湿地で暮らすことを決めたカイアの覚悟がすさまじいです。そこで母を待つために離れられなかったのか、湿地をこよなく愛していたのか、自分を蔑む人々の中に入っていくことを拒んだのか、カイアの心中には複雑な思いがあったことと思います。そして、これらが全て伏線となり、後半に収束していく流れが秀逸です。

そんな彼女をさりげなく支える店の黒人夫婦、彼女に読み書きを教えたテイトは、カイアにとって実の家族以上に心のよりどころとなっていたと思います。だからこそ、テイトの裏切りは許せなかったでしょうし、心に空いた穴をチェイスで埋めたかったのかもしれません。しかし、その穴をチェイスでは埋めることができないことは、カイアは初めからわかっていたようにも思います。彼女は、湿地とそこで生きる自分をありのままに受け入れてほしかっただけなのかもしれません。

主演はデイジー・エドガー=ジョーンズで、彼女の美しさにずっと見とれていました。テイトとチェイスに見せる表情や雰囲気の違いがとてもよかったです。何気にデビッド・ストラザーン演じる弁護士も有能でよき。ただ、後半はその冴えわたる弁護が仇となり、ラストが予想できてしまったのはもったいないところです。それでもオチの見せ方としては、余韻の残るいいラストでした。

おじゃる
すみれ7878さんのコメント
2023年12月6日

おじゃるさん、共感ありがとうございます。
私もカイアを演じた女優さんは、美しくて、とても良かったと思います。

すみれ7878