「風になれ」そばかす ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
風になれ
「天気の子」のグランドエスケープの歌唱で知った三浦透子さんの単独主演作品、上映開始が少し遅れた地域なものですから、公開を待ち侘びていました。
そして期待以上をゆく快作でした。今年一爽やかで、今年一共に傷ついた映画でした。
アセクシュアル(無性愛者、男女ともに恋愛感情を抱けない)の主人公の映画は初めて鑑賞しました。そのため合コンもお見合いもピンとこない、友達だと思っていた男性にキスされそうになったら拒んでしまったり、ゲイの幼馴染のカミングアウトもすんなり受け入れたりと、こんな世の中になれば良いのになと幼馴染の発言にもあるように監督の思いが込められているなと思いました。自分はアセクシュアルではないので、この感情や心境が完全に分かるわけではないんですが、今は恋愛よりも大切なものがあるというものにとても共感できました。動機はかなり違いますが、自分は映画やライブなど趣味に突っ走りまくっているので恋愛を含めると何かが崩壊しそうな気がします。ぼっちは全く怖くなく、楽しんだもん勝ちだと勝手に解釈した自分がいますが笑
役者陣の好演もあり、クスッと笑える瞬間がたくさんありました。気まずい会話の間みたいに空白の時間がとても面白くなっていました。なんて事ない会話が笑えるのは監督の手腕でもあり、役者陣が全身全霊でぶつかり合ってくれていたからだと思います。
多様性について考えさせられますが、某ネズミ帝国のように押し付けがましいものではないのが好感を持てます。真帆の父親が発言した"間違った多様性を子供に押し付けるな"という発言は子供を盾にして自分たちの意見を述べている卑怯な大人を体現していました。PTAのモロそれだなと思いました笑
とても昔に作られた御伽噺に価値観もへったくれも無いんですが、シンデレラを自己解釈して新たな物語に仕立てるのは良かったと思います。そりゃシンデレラもなんで王子様に見染められないと結婚できないんだ?と今は思っちゃいますね。こういうツッコミを真面目にやり切ったのも好感が持てます。
エンドロールに突入していくまでの駆けていく時間、そして主題歌「風になれ」が流れている時間がこれまた最高でした。三浦透子さんの透き通るような歌声に羊文学の塩塚モエカさんの美しく繊細なメロディーと歌詞にこれまた心震わせられました。大人の青春を味わうには抜群の時間でした。
楽しくもあり、辛くもあり、それでいて前へ前へ進める勇気もくれる素晴らしい作品でした。今年の邦画の中でもトップクラスの面白さでした。お見事です。
鑑賞日 12/27
鑑賞時間 12:05〜13:55
座席 C-2