「オーストラリアの田舎町の地方色や雰囲気は良く出ていた。ただ、ミステリとしてはやや淡白。“渇いていた”のは土地ではなく人の心だったというテーマはちゃんと伝えられている、とは思う。」渇きと偽り もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
オーストラリアの田舎町の地方色や雰囲気は良く出ていた。ただ、ミステリとしてはやや淡白。“渇いていた”のは土地ではなく人の心だったというテーマはちゃんと伝えられている、とは思う。
①Oxford Dictionaryを見ると「The Dry」でmainly Australian the dry season⚪Australian a tract of waterless country とあった。つまり、オーストラリア(確かに海浜地帯以外の国土は殆どは砂漠だもんね)=「乾いた土地、水の無い土地」ということで、原題が『The Dry』というのも、そういうオーストラリアの田舎町を舞台にした話というくらいの意味合いで捉えたら良さそう。そういう意味では邦題はちょっと外してるかな。映画を観てても1年近く雨が降っていないにしては町の人はあまり困っていないみたいだったし、農場もウサギがいるくらいだから全く不毛ではないようだし。ただ、舞台となるキラエアという町はヴィクトリア州内の設定でありヴィクトリア州は最内陸部はともかくオーストラリアでも緑の多い地方なので、世界の砂漠化は進んでいるんでしょうね。
②田舎町の人間が余所者を嫌ったりコミュニティー内の結束が強いのは、アメリカの西部でも、イギリスの田舎でも、私の生まれ育った奈良の田舎町でも同じなので、特にこの町が特別というわけでもない。
③田舎町の犯罪だから手抜きをしたのか人手が足りなかったのか、何故ルークが図った無理心中だと決めつけた説明がないので最初からミステリ性が弱い。覆されそうもない状況であればこそ真相の意外性が際立つのに。それと、私は長くミステリを読んできた習性ですべての登場人物を疑う上、映画も誰も彼も疑わしく描いているだけで捻りがないので真相が分かっても“ああ、そういうことだったのね”感が先に立って悲劇性が薄い。校長のルーク殺害のシーンでは石でルークの頭を二度殴っているが検死の時に問題にならなかったのかしら。そうだとするとオーストラリアの検死官もかなりのボンクラと言わざるを得ない。
④エリーの死のいきさつは中盤くらいで大体読める。高校時代のグレッチェンの言ったこととエリーの墓をアーロンが参った時にエリーのおヤッさんが出てきて墓を守っていると言ったところでピーンと来る。
⑤最後までだれないので演出力はある。ただ、あまりに淡々として緩急が足らない点もあり、校長がガソリンを撒いて自殺を図るクライマックスはもう少し盛り上げて欲しかった。スローモーションだけでは物足りない。あと、意外性を狙ったせいか校長の人物像が描き足りなくて追い詰められて已む無く犯行に走った感がないので手前勝手という印象しかなく(あんなところでガソリン撒いたらどうな分かりそうなもの。都会人がオーストラリアの田舎の現状を理解していないということを描きたかったのか?)同情出来ない人物像になってしまっている。(奥さんは最初から疑っていたんでしょうね。)ビリーまで撃ち殺さなければならなかったところももう少しサスペンスと悲劇性が欲しかった。
⑥エリック・バナはオーストラリア生まれ育ったんですね。だからオーストラリア英語があんなに自然だったんだ。歳を取って渋いイケメンぶりになってきたが、時々若い時のビル・マーレーに見えるときもあり。
⑦原作(英国推理作家協会(CWA)賞ゴールド・ダガー賞(最優秀長篇賞)は面白そう。蛇足ながら同じ最近のゴールデン・ダガー賞授賞作ではM・W・クレイヴンの『ストーンサークルの殺人』もお薦め。