「構想やアイディアは抜群!ただ物語の展開力は今一つ。そのためキャラが薄め」映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア) SKK Sさんの映画レビュー(感想・評価)
構想やアイディアは抜群!ただ物語の展開力は今一つ。そのためキャラが薄め
大長編ドラえもんを旧作からほぼすべて見ており、藤子先生時代の大長編ガチ勢です。
わさドラ版の映画の中では今回はなかなか楽しんで見ることができました。ただどうしても藤子先生の作品と比べてしまい、いくつか残念に感じてしまいました。
冒頭、出木杉くんのトマス・モアのユートピアの解説から始まり、知識欲を刺激してくれるところは旧作の雰囲気もありおしゃれでした。
日常パートはとんとん拍子でリズムの良さはありましたが、個人的にはもう少々脚本にスパイスを効かせて欲しかったです。
例えば日本誕生では「家庭や社会の中の子どもの窮屈さ」などからしがらみのない世界への「逃避(家出)」というテーマが冒頭のスパイスになっています。
藤子原作の多くは「子どものリアルな気持ち」がストーリーの展開軸になっているため、日常パートですらセリフに深みがあり、各キャラクターの個性が際立ちます。シーンも橋の上など(旧作はスクラップ場の高台)で展開されるなど街の様子に情感があります。子ども時代の私はそういった主人公たちのリアリティさに共感や刺激を感じていました。
今作のテーマはのび太の「パーフェクトになりたい」という願望かもしれませんが、演出も含めて少々安直に感じました。
追記:(よくよく考えるとのび太が自発体にパーフェクトになりたいと思う根拠が薄かったのだと思います。たとえば、先生や親からパーフェクトさを求められる、パーフェクトな人間が楽そうに見えるなどの描写が入ってほしかったなと思います。すると「こんな自分ではだめなんだ、パーフェクトになれたらいいのに、パーフェクトになれたらきっとなんでも上手く簡単なんだ」とのび太がパーフェクトを目指ことが自然に見えたかと(のび太の自信のなさとのび太らしい安直な発想)。するとパラドピアでのシーンが、「パーフェクトになるのは実際大変なんだ(体育算数など)」、「心をなくしてまでパーフェクトになることに意味はあるのか?」という問題提議が際立ったと思います。)
全体に言えるのですが、ところどころ伏線の貼り方はきれいなのですが、回収に少々荒っぽさが感じられました。
TIME新聞で手がかりを探すなどは気の利いた演出に感じましたし、安物飛行船を買ったためにおまけで飛行機セットを貰うのも自然で良い設定です。飛行船の仕様も細かくてこだわりを感じましたし、パラドピアの世界観もセンスが感じられました。
こういった伏線や下地はきれいなのに、パラドピアとの出会いは唐突でご都合主義な雰囲気が出てしまっていました。音楽やシーン、セリフをもう少し丁寧にひとつづつかみしめるように構成してもらえたら、もっとリアリティや緊張感が出たはずです。
(例えばユートピア発見後そのままなんの準備もせずに近づくのではなく、スパイ衛星を送ってからファーストコンタクトに向かうなどでもいいですし、時代背景がより分かりやすい非日常的な場所で出会うなどなど、いろいろやりかたはあったはずです)
旧ドラではちょっとしたシーンでホラー要素をいれて、子どもをハラハラさせたり、ドキドキさせたりしていました。そういった仕掛けが欲しい。
その後中盤の展開も荒っぽく、キャラクターの深掘りが少ない設定なので、唐突感が多い印象に。
追記:(中盤の盛り上がりである、のび太がドラえもんを撃てない、しずかちゃんがのび太を撃てないというシーンはきずなの深さが見れてよかったです。ただタイムラインを逆戻しにするのならパラレル西遊記のように、洗脳されてしまった自分たちの町というのも少し見たかったかなと思います。途中、ママとパパがのび太の帰りを待っているシーンがありましたがあれは何のために入ったのか?町が洗脳される伏線かと思いましたが、何の仕掛けもなくいらないシーンに感じてしまいました)