「よりストレートで骨太なドラマへ」ロッキーVSドラゴ ROCKY IV ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
よりストレートで骨太なドラマへ
ロッキーシリーズは1しか観たことがなかったので、今回1から3までを配信でイッキ見して臨んだ。途中、シリーズ1から3の回想シーンが結構長めの尺だったので、観ておいたことできちんと感慨に浸れてよかった。その後再編集前の4を観た。
2020年に本作の進捗についてインスタグラムで触れたスタローンは、「ロボットは永遠に廃品投棄場に送られます」「ロボットのことが好きではなくなった」と答えている。正直あの80年代感もなかなか好きなのだが、ロボットを削り政治色を減らし、人間描写を掘り下げた本作は、よりストレートで骨太なドラマになった印象だ。配信予定がないのがもったいない。
4作全体の話になるが、スタローンとその作品「ロッキー」は特別なオーラをまとっている。演技の上手下手や作劇の巧拙を超えて、挫折や苦難を乗り越えたロッキーが後半でトレーニングに打ち込み、人生を賭けて試合に臨む姿とその肉体が見られればそれだけで見応えがあるし、感動してしまう。
ロッキーの生き様がどこかスタローンの人生哲学に重なって見えて、そこから本シリーズ独特の味わいや説得力が生まれるのだと思う。彼が「ロッキー」を形にするまでの経緯自体が既に映画のようだ。また彼の鍛え上げられた肉体は、その生き方を雄弁に語り、物語の力強い裏付けになっている。
ロッキーの性格も魅力的だ。飄々としていて、型にはまった聖人君子ではないが折々に垣間見せる優しさがあり、時に不思議な気高ささえ感じる。女性の扱いは絶品。本作序盤で、席を外したエイドリアンを追ってキッチンに行ったロッキーの、彼女に言いたいことを吐き出させてパン袋を殴らせるという細やかなケアに妙に感動した。「ロッキー4」にはなかったとてもよいシーン。イタリアの血筋は伊達じゃない。
自分の力が認められない悔しさ、挫折からの再起、成功後に忘れかけたチャレンジ精神、地道な努力の日々など、どれも言ってしまえばベタなエピソードだが、主人公が魅力的で説得力ある存在だとベタが王道に変わり、心を強く揺さぶってくる。
旧ソ連側の描写は典型的なものだが、ドラゴのかっこよさでお釣りがくる。本作の出演を勝ち取るためにほぼ筋肉だけで10kg以上増やした肉体が、戦闘マシーン感満載で素晴らしい。ブリジット・ニールセンと組むことで更にキャラが立っていた。
奇しくも現在の世界情勢においてもロシアはアメリカと相容れない存在で、本作での旧ソ連の描写に残念ながらさほど違和感を覚えない。妙に時流に合ってしまったのは皮肉なことだ。むしろ今はこんなエキシビションマッチさえ出来ないだろう。
それにしても、半分近くの映像を入れ替えて違うテイストのバージョンを作れるほどのバリエーションとクオリティの映像を当時撮っていて、それをちゃんと世に出してくれたスタローンには本当に頭が下がる。ひとたび完成作品を世に出して、あまつさえそれが大ヒットしたら、そこから更にここまで手間をかける情熱を持てる人間はなかなかいない。一般的なディレクターズカット版とは手直しのレベルが違う。
そして、これだけ観客に勇気を与え続けるシリーズを生み出しておきながら、本作のPR動画で「メッセージは二の次さ。純粋に現実逃避してくれればいい」と言ってのけるスタローン。かっこよすぎやしませんか。
私は個人的には元の作品の方が好きでした。ずっとなぜだろうと考えていましたが、このレビューの「正直あの80年代感もなかなか好きなのだが」という文章で、「あっ!これだったんだ!」という気になりました。