「一番のエゴイストは誰だったか」エゴイスト Kさんの映画レビュー(感想・評価)
一番のエゴイストは誰だったか
お金という分かりやすいツールを用いて「してあげる」ことで自己有用感を満たし、また望む結果を得ようとする浩輔。
その愛がエゴである…と言えなくもないけど、地面に落ちたコインを泣きながら拾い(この時、一瞬面倒くさそうな表情を見せる鈴木亮平の演技が秀逸すぎた。おそらく龍太を喪う前の彼なら拾わないのだ)、また泣きながら眉を描く浩輔は、誰よりも純愛の持ち主だと思った。
では、レビュータイトルの答えは誰か。
私は、妙子であると思う。
学生の息子がおり、自らも病を得ながら、公的支援を受けることをよしとしなかった。
結果、息子は高校を中退して働くことになるのだが、息子が「人を応援する仕事」に就いたことで、過去を正当化しようとする心の動きも見える。
稼ぎ頭だった龍太を喪ってなお、彼女は福祉の世話にはならない。
浩輔の援助は受け取るが、心の底から受け入れているわけではない。
きっと彼女の本質は、誇り高く、孤独を愛する人なのだ。
しかし同時に、困難の中で自分では決断しきれず、人の優しさに流されがちな弱さ・甘さも持っている。
私はそんな妙子のエゴを、「悪」だとは思えなかった。
ギリギリまで自力で何とかしようともがく妙子は、どの登場人物よりもリアルに人間くさい。
とっくに折れてもおかしくない心をどうにか奮い立たせ、自ら立とうとしている結果、そうなってしまったのだ。
彼女が龍太を心から愛しているのも本当だろう。
だから、自分の夫とは違って“真っ当に”頑張る青年に育ったことが嬉しいのだ。
彼女の選択や生き方が「正しい」かと言われれば首をひねるしかないけど、同じ「息子を持つ母親」としては、どうしようもなく共感してしまうのだ。
ラスト、初めて彼女は「まだ帰らないで」とエゴを表に出す。
死がすぐそばにある場面で、初めて心の底から人を求める。
それこそが、浩輔の真の救いになる。
見ている私も救いを得る。
なかなか不思議なカタルシスのある映画だった。