劇場公開日 2023年2月10日

  • 予告編を見る

「原作にはない生々しさを感じることができる映画」エゴイスト maruoさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0原作にはない生々しさを感じることができる映画

2023年2月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

難しい

原作を知らない状態で鑑賞。その後、すぐに原作を買って読みました。原作を読みながら浩輔、龍太、龍太の母親が、鈴木亮平さん、宮沢氷魚さん、阿川佐和子さんとしか思えない、むしろ3人に合わせて小説を書いたのではないかと思えるくらい、映画の配役が素晴らしかったこと、そして3人の演技が強く印象に残るものだったことを改めて感じました。
映画では2時間という制約の中で登場人物の感情を見事に表現していたのですが、やはり説明しつくせないところや疑問点はあったので、それは原作を読むことで解消できました。特に浩輔が龍太の母親に愛情を注いでいく理由や背景は、映画では「きっとこういうことだろう」と想像する必要が幾分ありましたが、原作では主人公の思いを丁寧に描いてくれているので納得できました。
一方、映画のヨリを中心にした撮影方法は登場人物の気持ちにぐっと惹きつけられ原作以上に感情移入できると思いました。また、生々しい仲間同士の会話や、浩輔と龍太の恋人同士のたわいない会話など、リアルなドキュメンタリーを見ているようで、原作以上に人のぬくもりを感じることができました。基本ずっとヨリなのでヒキが欲しくなるところもありました。例えば二人のベッドシーンは顔や腕のアップだけで進んでいくのでどういう状態なのか分かりづらい。リュウタが初めて主人公の部屋を訪ねたとき、「わー広い」というのですが、部屋の引き画がないのでどのくらい広いか分からない(ベランダの景色やソファーから高級マンションだということは分かり、そこからきっと広いのだろうなと想像することはできます)。
原作にないシーンとして、映画で数回流れるチャイコフスキーの「悲愴」に注目しました。チャイコフスキー自身もゲイの作曲家として苦悩を抱えていたそうなので、外では明るく振る舞う浩輔の、ゲイであるがゆえの悩みというか闇の部分を表しているのだろうと勝手に思いました。
男性同士の恋物語から始まるが、そのジャンルにとどまらず、愛とはなにかを考えさせられる深い内容へと進んでいく感動作品です。映画、原作を両方見て、こんな素敵な小説を書いた高山真さんの他の作品も読んでみたいと思ったのですが、鈴木亮平さんが書いたあとがきのなかで、すでに著者が他界されていることを知りました。残念です。あとがきで紹介されていた高山さんのエッセイを読んでどんな方だったのか想像してみたいと思いました。

maruo