「恥ずことなどない」カムイのうた サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
恥ずことなどない
近頃の「破戒」や「福田村事件」などといった、100年程前の日本で実際にあった差別社会を扱った作品はどれも傑作で、これらと同等のレベル、更には斬新な切り口で物語を展開するというのは、かなりハードルが高かったと思う。しかも、観客の目も肥えているからより難しい。比べるのは酷だが、差別はあってはならない、を社会に訴えかける作品として、上記の映画に勝っているものは無かったように感じた。
でも、アイヌ民族の文化や伝統の素晴らしさをもっと知りたい。この映画を通じてそう思えたのには、とても意味があると思う。本作で語られているものはほんの一部に過ぎず、アイヌにはまだまだ沢山の魅力があるはず。きっと女学生たちもユーカラを聴いたら考えが変わる。だから、無知って怖いなって思わされる。いじめるなんて、自分が何も知らないと大声で言ってるようなもんじゃない。バカだね〜、私たちの文化はすごいんだから、とそんくらい強気にいかないとね。恥じることなんてない。
主人公のモデルは知里幸恵という、アイヌ民族の減少に伴いアイヌの伝統文化が絶滅してしまう危機を、自身が翻訳・執筆した本の出版によって救った実在の人物。19歳とあまりの若さでこの世を去ってしまったが、その功績は偉大だった。吉田美月喜の演技は「あつい胸さわぎ」に引き続き良かったが、そんな女性の伝記映画としては、色々と足りない。加藤雅也の教授には心温まったが、せっかくなら出版し、世に知れ渡ったところまで見たかったな。悲しい物語として終わってるのは、ちょっと勿体ない。