「ライオン対ビースト」ビースト 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ライオン対ビースト
アフリカ旅行中、狂暴なライオンが襲撃。父親は娘たちを守れるか…?
これほどシンプルで分かり易い作品も昨今珍しい。尺も90分。
下手すりゃただのB級になるところだが…、
なかなかスリル満点のサバイバル×アニマル・パニック。
この手のジャンルでよく言われるのが、序盤のドラマ部分は退屈。レビューでもちらほら、家族ドラマなんていいからライオンとの闘いをずっと見たかったとの声もあるが、一応この部分が主人公家族の話の肝や父親が闘う動機にもなっている。それに、たかだか30分くらいなんだから我慢して!
亡き妻の故郷であるアフリカへ旅行に訪れた医師の父親と二人の娘。
一見仲良さそうに見えるが、奥さんが亡くなる前に別居し、亡くなる時傍に居なかった事から、娘たちとの関係にミゾが。
この旅行はその関係修復も兼ねて。自分と娘たち、各々のこれからにとっても非常に重要。
そんな時襲い来る恐怖。
何としても…いや、絶対守らなければならない。
家族の背景の地盤がシンプルながらしっかりと出来て、いよいよ襲い掛かって来られても大丈夫。
旧友の案内である村に立ち寄り、惨状から不穏と危険を感じ取り、“奴”が姿を現す。
ここもド派手に“THE登場!”ではなく、突如の急襲。恐怖とパニックを煽る。
“奴”は何処から襲撃してくるか分からない。襲われたら、終わり。とにかく執拗。
離れた場所に傷を負った旧友。助けに行かなければ。
娘たちは怯えている。守らねば。
ほぼ車の中のワン・シチュエーション。
時々外に出た時の緊張感。
逃げ場のない極限状態下の閉塞感。
『ザ・ディープ』『エベレスト』『アドリフト』などサバイバルものに手腕を振るうバルタザール・コルマウクルの演出と名手フィリップ・ルースロによる臨場感たっぷりの映像は、単なるB級の類いのそれとは違う事を証明している。
やはりライオンの狂暴さこそ見もの。
ライオンは基本CGで描かれているが、シーンによって本物も使用。なかなか見分けが付かないほどリアル。
人間を襲って食べるのではなく、狂ったように人間だけを襲い、殺す。
その昔実話を基にした『ゴースト&ダークネス』という人喰いライオンの作品があったが、こんなにも恐ろしいライオンの映画は他にないのでは…?
あまりの恐ろしさから“ディアボロ(悪魔)”と呼ばれ、普通のライオンじゃない。奴は、何者…?
開幕シーン。密猟ハンターらがライオンの群れを襲撃。一頭だけ逃す。そう、この一頭が…。
仲間を殺され、人間を憎むようになったライオン。
全ての人間を敵とみなし、悪魔の獣と化した。
ちゃんとライオンにも動機があるのだ。
怒り狂ったライオンの力と恐ろしさは、他のライオンの比じゃない。
こんなライオンに太刀打ち出来るのは、ドウェインかステイサムくらい。
その二人と闘った事あるイドリス・エルバが、闘う。
彼の熱演が作品に貢献している。
キャストは多くないが、シャルト・コプリーや娘役二人も奮闘。
ツッコミ所もあり。最たるは、
外が危険な事承知なのに、結構ひょいひょいひょいひょい外に出る。娘なんて負傷した旧友のおじさんを助けに。
父親も旧友もさっさと逃げりゃいいのに、一人で銃を持ってライオンを追う。挙げ句、返り討ち…。
私なら絶対車から外に出ないけど!
人間を憎むようになったライオンだが、ライオンがそんな感情を抱くのか…?
まあ、この手のジャンルに付き物。
クライマックスは父親とライオンの一対一のガチンコバトル。
さすがに劣勢。決着は…。
ラストは指摘受けてるようだけど、いい方法だったんじゃないかな。なるほど“縄張り”、頭脳戦だね。
確かにB級テイストと言ったら、B級テイスト。
でも、実力あるスタッフやキャストにより、無駄を削ぎ落としたシンプルで、一級のスリルとエンタメ。
個人的に何とも言えぬ作品を見た後だったので、スカッと救われた気分。
ちゃんと大事な事も漏れなく。
悪魔の如く描かれているライオンだが、そもそもの原因を作ったのは人間。
自然の怒りを買い、報いを受ける。
人間こそ、愚かで恐れを知らぬビースト。