劇場公開日 2022年12月16日

「思い入れの深いファンとして」Dr.コトー診療所 nazionaleさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5思い入れの深いファンとして

2022年12月17日
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Dr.コトー診療所は自分の生涯においてもベストと言えるドラマ。
人生の見方すら変えられたといえる作品であり、ふと思いついては見返している。
そのドラマを16年ぶりに映画化する。驚きと同時に喜び、そして一抹の不安もあった。
思い入れが強いからこそこれだけの年月がたったことで作品にとって大切な要素が失われてしまうのではないかと。
ただそれは杞憂だったと、見終わった今感じている。
いやむしろ今であるからこそ意味のある作品となった。
年老いて病魔に侵されるコトー先生、島の医療をいってに背負い、住民の命を守り抜いてきたからこそ疲弊した姿というのは過ぎ去った月日を経てでしか描けなかったでしょう。
彩花とコトー先生の関係性をあえて間を省き妊娠という時期を描いたのも命を描く上で強い説得力があり、コトーという作品のテーマ性を映し出したように感じられた。

ただ正直にいえばファンとして、コトー先生の隣には剛洋がいてほしかったという思いはある。しかしコトー先生に対して率直に意見を述べたり離島医療の問題点をはっきりと述べる役目は剛洋には似合わない。その点で新たに織田判斗 という役割を設けたこともうなずける要素ではあった。
剛洋が医者になれていない というのはどうしても受け入れがたさもあったものの、常に人 というものを丁寧に描き出してきたDr.コトーだからこそ、現実や挫折と苦悩が反映された描写であると納得することも出来る。
作中コトー先生が言う 医者になってほしかったというのは傲慢な欲だったのかもしれない という言葉にもハッとさせられる。剛洋は我々と同じような感情やプレッシャーを島の住民たち皆から受けていたのかもしれない。逃げ道もなく父からの期待を背負い都会で一人戦っていた。そんな年月が頭の中に浮かび上がり、彼の苦悩に感情が乗り移っていた。
ただそれでも医者という夢を、コトー先生を継ぐということを諦めてほしくない という思いに苛まれ、どうなってしまうのかと不安も覚えていたが最後きちんと医者への道を再び志していく剛洋を見て救われることができた。

ただ若干の疑問を覚える場面も少なからず。
野戦病院となった診療所にミナが助けに来ないのはなんでかな というのが一つ。
和田さんと結婚し看護婦から足を洗っているのかもしれないがああいった状況下であれば助けに来ないのはおかしくないか と感じ。
また剛洋も医学部に4年いたのであればもっと手当など手伝えたのでは?という疑問も。足がすくんだともとれるものの、イマイチ納得しきれないところではあった。
また助産師として新たに美登里さんというキャラクターが設けられているが、産婆として志木那島を支えていた内さんとの関係性なども引っかかってしまった。

あとはこれはもうファン心理に過ぎないが、邦ちゃんが本人ではないのはやっぱり残念…。
剛洋を富岡涼さんが演じてくれているだけに余計…。仕方ない点もあるだろうが出来ればそこも拘って欲しかったなとも感じてはしまう。
剛洋と邦ちゃんは本人でないとどうしても違和感が、厄介なファン心理に過ぎませんが…。

しかし作品全体としては
今だからこそ描けたもの、今であるからこそ意味のあるもの
救って救われて、そして生きていく
そういった根幹のテーマ性がきちんと刻まれている。
あきおじの藁草履や石碑、剛宝丸に今も乗る邦夫などこれまでの作品で描かれてきたものをきちんと拾い上げ、作品として重要視してきたものを丁寧に表現しつつ、最後に生まれてきた命と手を紡ぐ 先生で締めるシークエンスはとても美しいものだった。

ただし倒れたコトー先生にそれでも命を救うことを要求する島の住民の身勝手さには流石に憤りも覚え、結局白血病についてや診療所の統廃合のついても有耶無耶なままで終わってしまったのは引っかかる点。

完璧な作品だった と言い切れはしません。
終わってしまうんだなという喪失感もある。
でもそれでも無いものと思っていた続編を作り、今の世に送り出してくれた制作陣と再び集ってくれたキャストの面々皆にファンとして感謝をしたい。

nazionale