「苦労人の名優がモラル無き誘拐犯に略取された時、脱出を賭けて人生最大の"演技"が始まる... 誘拐グループVS人質・警察の二転三転スペクタクル映画」人質 韓国トップスター誘拐事件 O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)さんの映画レビュー(感想・評価)
苦労人の名優がモラル無き誘拐犯に略取された時、脱出を賭けて人生最大の"演技"が始まる... 誘拐グループVS人質・警察の二転三転スペクタクル映画
いくつもの主演男優賞受賞歴のある俳優ファン=ジョンミン氏が本人役で主演した誘拐もので、自分と同じく誘拐された少女を含めて脱出すべく犯人側と命懸けで駆け引きするアクションスリラーです。
2時間越えがザラで、どんでん返しが二度三度繰り返される韓国映画の中に在って本作はたったの90分尺ですが、警察も交えた追跡・逃走劇は幾重にも展開して飽きさせず、満足感は尺以上の大作でした。
その短い尺の中、作中でオミットされているのが誘拐グループ側の出自です。近々、巷間を騒がせている誘拐専門の犯罪者集団ですが、身代金が手に入ったとしても証拠隠滅のために人質を殺害するなど凶悪性が著しく、そこまで倫理を振り切らせた彼らの背景が気になるところではあります。
通常であれば貧しさゆえの踏みつけにされた幼少期であったり、高額な医療費が必要な家族事情だったりが描かれそうですが、本作ではそうした彼らの事情が一切語られることはありません。犯人側のリーダーが筋金入りの前科者であることは判りますが、特にカリスマ性やメンバーとの絆が有るわけではなく、ただただ道を踏み外した人々です。
変に感情移入させようとするのではなく彼らを理不尽な悪に留めたことで、結果として誘拐の謂れなき暴力の恐怖と不気味さが際立ち、さらには終盤に仲間割れの緊張も加わって物語全体が締まったのではないかと思います。
あらためて俯瞰すると純然たるスリラーであり、啓蒙的なメッセージはありませんが、実話ベースのストーリーなのでそうした付け足しは無しでよかったのかもしれません。
尺が短いこともありますが決して描写不足というほどでもなく、クライムもののカタルシスを味わうにはうってつけなのは間違いないと思います。