劇場公開日 2022年12月9日

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「相変わらず難しさが残る純文学作品」夜、鳥たちが啼く R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5相変わらず難しさが残る純文学作品

2024年6月15日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

難しい

主人公シンイチは作家 作家仲間たちとの団らんで話される「文学とは?」
そしてこれは、起承転結がはっきりしない純文学という部類の作品。
夜中に鳴く鳥 シンイチはそれを発情期と説明する。
タイトルに使われる漢字は「啼く」 つまり特別なこと、または耳障りの良いことを指す。
このことは表面上のことと実際との乖離があることを示しているようだ。
発情とは男女 それに関連した出来事がこの物語を作っている。
隣の奥さんはシンイチと新しく住み始めた母子が再婚したのだと思い込んでいる。
シンイチは未婚のままアヤと同居していたが、シンイチの嫉妬が原因で別れた。
シンイチの先輩と結婚していた「松本まりか」(名前は出てこない)は、息子アキラがいたが離婚してシンイチの平屋に居候する。
離婚の原因がアヤだった。喫茶店に呼び出された「まりか」は、一切しゃべることなく離婚届に印鑑を押す。
これが基本的な相関図となっている。
アキラは聞き分けがいい。放課後に公園で友達と遊ばないのは、学校でも孤立しているのだろう。ところがある時、シンイチと公園で「だるまさんが転んだ」をすると、みんなそれに参加した。
余りにも楽しかったひと時、歩きながら3人でまただるまさんが転んだを始めた。
そこに飛び込むように現れた逮捕劇。あの野球選手同士のけんか。アキラは大声でだるまさんが転んだというと、一瞬警官と選手が止まる。
それがおかしくてゲラゲラ笑う3人。
さて、
シンイチが主人公ではあるが、名前のない「まりか」こそこの作品の最重要人物なのではないかと思われる。
なぜ彼女だけに名前がないのだろう?
「声聞こえたかな?」という彼女のセリフがあるので、啼く鳥とは彼女自身を指していると思われる。
それは確かに発情的な求めだったが、人が求めるのはそれだけではない。
彼女は言う。「ずるいよね、もう男に振り回されたくない。もうアキラと仲良くしないで。期待させないで」
これと呼応するのが、3人でプレハブで寝た後、アキラがTVを見に家に戻ると、シンイチは強く彼女を求め、彼女は抵抗しつつも抱かれるのだ。
発情する時間帯の相違。男女の相違。求めるものの相違。日常の相違…
花火大会の後、お隣さんが「出ていった旦那が戻ってきた」と声を弾ませる。
アキラが家に入り、シンイチは執筆活動をしにプレハブへと戻る。まりかは、ひとりで「だるまさんが転んだ」と言ったが、シンイチはすでにプレハブの中に入っていた。これは彼女がした「かけ」だったと思われる。
余りにも楽しかった日。
シンイチとアキラの3人でこれからうまくやっていけるのかどうかを「かけ」たのだ。そして「かけ」は失敗を示した。発情の相違もあるだろう。かみ合わない。
しかしプレハブではいつになくシンイチの執筆が回りだす。
同時にさっきの花火の回想シーン 大きな花火が大輪の花を咲かせエンドロールとなる。
これはシンイチにとっては幸先のいい予感だ。
名前のない彼女、彼女だけがまだこの先のことが何も見えてない状態だ。
彼女は夜な夜な発情していた。それは満たされない気持ちの所為。
そしてケージの中の鳥。
不動産屋でもこれといった物件は見つからなかった。シンイチの都合のいい言葉。
何も決められないのは彼女自身だ。彼女はどこにも行けない。
毎晩ケージの中で啼く鳥だ。
彼女はアキラのために「校区」を変えたくないというが、それは自分が動けない口実でしかない。
この作品は、主人公を通して彼のもう一人の隣人である彼女(まりか)という夜啼く鳥を描いている。
実際にはどこへでも行けるのに、理由をつけて行こうとしない鳥の嘆き。
つまらない「かけ」をする女。
しかし、このような視点を作品にするのは恐れ入る。

R41