「疑問が残る」劇場版モノノ怪 唐傘 ねさんの映画レビュー(感想・評価)
疑問が残る
どうやったら製作陣に届くのかを考え、このレビューを書くためだけにアカウントを作成しました。アニメ版が好きで、楽しみにしていたものです。見てもらえたらいいのですが。
全体的に、製作陣が見せたい相手と、この作品を楽しみにしていた層との乖離を感じる内容でした。
製作陣はもしかすると初見・海外を意識しているのではと感じたのですが、そのためかアニメ作品そのもののファンがモノノ怪の醍醐味と感じている部分をないがしろにしている印象です。
私自身は映画は映画の中だけで完結するべきという意見を持っているため、希望として能動的にインタビューなどの他媒体から情報を得たくはありません。この感想の答えがたとえ他媒体にあったとしても、映画そのものでは納得・理解できなかったこととして記載します。
以下よかったところと納得できないところを箇条書きにし、その理由を述べます。簡略のため丁寧な語尾は省きます。
良かった点
・声優さん
特にアサ役黒沢さんの最後の掛け声、薬売り役神谷さんのアニメ版薬売りをリスペクトしてくださったであろう話し方
・主題歌
彼女の声質がモノノ怪の雰囲気とよく合っていると思うし、楽しみにしていた「女性の力強さ」のようなものを感じた
納得できない点
・舞台が大奥である必要性が感じられない
この内容であるならば、舞台を大奥にする必要はないのではないか。なんなら薬売りさん役の続投も可能だったのではと思う。
最初から決まっていたのがこの内容ならば、せっかくアニメ終盤、「化猫」で時代の移り変わり(鉄道開通から大正と推測)を感じさせる内容だったのだから、場所を現代に移してOLを主人公にしたらよかったのでは?
現代は人間の数が増えた分、妖を顕現させないためにより過干渉にせざるを得ない…みたいな解説をつければ、後述の薬売りさんの点についても、納得はできなくても理解はできたかもしれない。
不祥事が発覚した時に、声優さんの変更より前にストーリーの変更をして、声優さんが変わってからもストーリーは戻さなかったのか?と思うほど、大奥である必要を感じない内容だった。
また、入ってすぐの新人がそんなすぐに出世するか?という、当たり前の疑問が映画全体を通してずっと残った。
・カメに対するアサの執着が理解できない
あんなに執着する理由は描かれていたか?ただの同僚、ただの同期、舞台が大奥なら蹴落とす相手なのでは?手伝う理由もわからないし、庇う理由もわからない。前々からカメを一方的に知っていて、追いかけて入ってきたのならまだわかるが、たとえ同世代、同性だとしても、出会ってすぐの相手にそこまでするか?というのが率直な感想。
また、カメ本人も同情が得られにくいキャラクターなので、余計に意味がわからなかった。
・薬売りさんが干渉しすぎて、アニメ版の薬売りさんにあった良さが死んでいる
第三者として、登場人物の話を静かに聞くことによってストーリーが進んでいたアニメ版に比べ、直接的に関与しすぎ。
誰かに頼まれたわけでもないのに男子禁制の場に勝手にずかずか上がり込んでいるのも気になる。
どこかのインタビューで別人格とは言っていたが、アニメ版の非当事者感が気に入っている人からすれば完全に別人で、これを薬売りさんと言うには無理があると思う。それなら外見も少し若め・やんちゃめに変更するなど、別人であることをはっきりと表現した方が視聴者に親切だと感じた。薬売りさんは魅力的なキャラクターであるが故に、このズレはとても残念だった。
薬売りさんをここまで別人にするなら、なぜクラファンをしたのか、という点も大いに疑問。
・理と真が適当すぎる、形が唐傘である意味も薄い
これに関しては他の方のレビューにも散見されるため割愛。
・画面がうるさすぎる
和紙風のテクスチャはこの作品の特徴的な部分だが、流石に貼りすぎだし、全体的な色彩がうるさすぎ(彩度が高すぎ)て肝心の和紙っぽさが減っている。色彩が明るすぎる分、じゃかじゃかした質感のテクスチャを上から貼っているのか、そのじゃかじゃかのかけら?繊維のような影が場面に合わせて全然動かなかったのも気になった。カメラ側に貼ってあるような感じ。
全てに柄を入れると確かに華やかで美しい印象を与えることができるけれど、本当に見せたいメッセージが他にあったとしても読み取りづらくなる。
アニメ版では襖や障子に描かれた絵柄も含めて物語全体を構成していたが、映画ではたとえそのメッセージがあったとしても、他の雑多な柄と混ざってすぐにはわからなくなっていた。少なくとも私には、柄からメッセージは読み取れなかった。
着物のように柄合わせや色合わせで意味を見出せる人ならなにか読み取れたのかもしれないが、私には何の情報もなく、ただ和風柄と和風柄をぶつけただけなのでは?と感じた。
色彩の感じ方が日本人と欧米人で違うため、欧米を意識したものかもしれないが、どうして海外と国内で色調を調整したものを2つ準備できなかったのか。
・ずっと動ばかりで静の時間が全くなく、間が死んでいる
先述の画面がうるさいにも通ずるものがあるが、ストーリー、画面両方の観点から、ずっと忙しなく動く描写が続きすぎる。襖の演出も転を表すとても「モノノ怪らしい」演出ではあるが、連続して使うことによって無駄に脳の容量を使ってしまい、良さが半減していたと感じた。
私の感じる(アニメ版)モノノ怪のいいところとして、静の時間が比較的多めに取ってあることによって、視聴者の理解が追いつけるところ、それによって和ホラーらしいおどろおどろしさや、登場人物と一緒に不穏な空気を味わうことができる点があったが、本作ではそのような間は一切設けられず、時間内にやりたいことやいれたいことを詰められるだけ詰めろ!といった勝手さすら感じた。
色彩の件と合わせて、この映画を作った人は、本当に映画館でこれを通しで見てみたのか疑問。見た上でいけると思ったのならなおさらとても不思議に思う。
感想総括
製作陣が見せたい相手がアニメ版ファンでないなら、クラウドファンディングはあまり良い手ではなかったのではないか。
クラファンするなら、どうしたって参加者は前作のファンになる。参加者も、参加していないアニメ版モノノ怪ファンも、クラファンのニュースを見たらアニメ版を尊重したストーリー展開、キャラクター構成を期待してしまうと思う。
逆にアニメ版を知らず、この映画が初見なら、珍しい美麗な和風アニメーションとしてシンプルに受け入れられるだろう。