「カラオケで出会った、ヤクザと中学生のずれた青春」カラオケ行こ! shinさんの映画レビュー(感想・評価)
カラオケで出会った、ヤクザと中学生のずれた青春
あらすじ
合唱部の部長・聡美は、ヤクザの成田狂児から、なぜか歌を教えてほしいと頼まれる。
かみ合わないようで、不思議と続くふたりの時間のなかで、歌や自分自身と向き合い、少しずつ距離を縮めていく、小さな青春の物語。
感想
ヤクザ×中学生×青春×カラオケという、一見ちぐはぐな組み合わせが、不思議とハマっていて、最後まで楽しく見ることができた。
思春期特有の心と体の変化と、合唱という題材がうまく結びつき、リアルさもありながら、自然と笑いに変わっていく流れが心地よかった。すっと映画の中に入り込めた感覚がある。
そんな中でも印象に残ったのは、ヤクザたちがそれぞれの持ち歌を本気で歌うシーンだ。
場の空気はどこか間の抜けた可笑しさに満ちていて、思わず笑ってしまった。
その中で聡美が冷静にツッコミを入れたり、だんだんめんどくさくなって罵倒する流れも、肩の力の抜けたテンポで面白かった。
ふたりのやりとりは、どこかズレたまま進んでいくけれど、その不器用さやぎこちなさが、少しずつあたたかさに変わっていく過程がとても良かった。
無理に距離を詰めるでもなく、自然と隣にいる感覚が心地よかった。
そしてラストの「紅」。
ただ歌がうまかったからではない。
不器用に重ねてきた時間が、そのまま聡美の歌ににじみ出ていた。
声変わりの不安定さも、ふたりの積み重ねも、あの一曲のなかに静かに息づいていた。
それが、シリアスになりすぎず、でもどこか胸に残る、映画らしいラストになっていた。
振り返ってみると、この映画は、ちぐはぐなふたりが、ちぐはぐなまま並んでいることの、ささやかな心地よさを描いていたんだと思う。
肩の力を抜いて観られて、でもじんわりと温かさが残る。そんな、いい映画だった。