「一会一歌」カラオケ行こ! 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
一会一歌
私ゃド音痴だが、カラオケで歌うのは嫌いじゃない。
しょっちゅう行く訳でもないが、行けばド音痴でも自分の好きな歌を心行くまで歌う。
それがカラオケの醍醐味。
しかし、ある“会社”では…。
毎年“社長”の誕生日にカラオケ大会が開かれ、ビリには“歌ヘタ王”の称号と共に怖~い怖~い罰が。
男は悩んでいた。
そんな時、文化ホールから天使の歌声が。
中学生の合唱コンクール。歌声の主はその中学校の合唱部の部長だった。
コンクール終わり、待ち伏せして声を掛ける。
「カラオケ行こ!」。
そう中3男子・聡実に声を掛けてきたのは、ヤクザの狂児だった…!
ヤクザと中3坊とカラオケと。
何ともおかしな組み合わせで人気の同名コミックの実写映画化。
当初はまるで興味無かった。原作コミックも知らんし。
が、公開したら「面白かった」とのなかなかの評判。何かの番組で紹介されていて、ちと面白そう。
何より興味持ち始めたのは、監督・山下敦弘×脚本・野木亜紀子。
こりゃただのおバカ設定のコメディに終わるだけじゃない。
山下監督がコメディを手掛けた時の緩いクスクス笑いは勿論の事、ヤクザと中学生の青春のような奇妙な友情、そこに人情も感じられ、そして愛!
クッサイ事言ってるなぁと思った合唱部の副顧問、ドンピシャな事言ってたじゃん。
強引にカラオケへ。
“会社”とか“社長”とか言ってるけど、この人も含め“あっちの世界の人”なのは聡実にだって分かる。
だから当然、ビクビクビクビク。
そんな事お構いナシの狂児。早速歌う。
歌うは、勝負曲のXJAPAN『紅』。
熱唱。どや?
裏声が気持ち悪いです。後、手…。意外と毒舌指摘の聡実。
何やとこのワレ!…と言ったのも最初だけ。
それからは素直にアドバイスを求める。意外と怖い人ではない狂児。
何としてでもビリにはなりたくない狂児。
嫌々の聡実をしつこく何度も誘い、歌の個人レッスン。
何故か教えるハメになってしまった聡実。
そんな彼にも思春期ならではの悩みが…。
自分の声質と合ってない『紅』以外はそこまでヘタではない狂児。
だけど、どうしても『紅』が歌いたい。
この歌には、“カズコ”の思い出が…。
今はもう居ない愛した人…?
と思ったら!
やさぐれ感もありつつ、時々子供みたい。“狂児”は本名。冗談を言ったりして陽気で、優しくもある。「聡実く~ん」の距離が近いけど。
綾野剛のいい感じの男臭さとコミカルさ。熱唱もたっぷり。
何処にでもいるような中学生。
ヤクザにカラオケに拉致られて、最初はビクビク。だけど次第に。
アドバイスは辛辣だったり、的確だったり。冷静で大人びた一面も。
演技巧者・綾野剛相手に引けを取らず。
どんな子役キャリアかなと思ったら、小さな役でほんの数本しか出ていない、オーディションで選ばれた新人!
大役はこれが初。恐るべし、齋藤潤!
聡実に大ピンチ!
狂児から話を聞いて、狂児のヤクザ仲間もレッスンを乞う。
カラオケBOXに中学生とヤーさんがいっぱい。さすがに生きた心地がしない…。
一応毒舌アドバイスしたけど、すっかり怯えちゃって…。
もう勘弁!
でも、狂児さんだけなら…。
二人が徐々に育んでいく関係性が愉快。
何だかもうレッスンは日課のように。狂児の為に声質の合う歌を探したり。
最初はビクビクしてたけど、いつしか『紅』を歌い始めたら容赦なく停めるまでに。
ある時聡実がヤクザに絡まれ、狂児が助ける。
ビルの屋上で…。距離が友情が深まり、何かハートフルな青春だなぁ…。
奇しくも狂児のカラオケ大会と聡実の合唱コンクールが同じ日。
お互い頑張ろう。
と言ったのも束の間、喧嘩。
ホント、青春だなぁ…。
そんな聡実くん、悩み事があって…。
実は変声期。上手く歌えない。
なのにソロパートを任されちゃって…。
それ故部長なのに部活も休みがち。幽霊部員でもある“映画を見る部”に入り浸り。この名画チョイスも一興。
そんな聡実部長に、後輩部員は不満を。
こっちでも青春してます。
迎えたカラオケ大会と合唱コンクール。
やはり歌えないとコンクール会場を飛び出す聡実。
そんな時、ある光景を目撃してしまう。
まさかまさか…。急転直下の悲劇へ…?
居ても立っても居られず、カラオケ大会の場へ。
呑気に歌ってるヤクザたちに一喝。
組長の気に障り、歌えと。
今とても歌える喉じゃない。歌える気持ちでもない。
でも…
聡実は歌う。歌うは勿論、XJAPAN『紅』!
聡実の熱唱と、過ごした思い出の数々と歌詞がリンク。
狂児へ捧げる鎮魂歌…。
と思ったら!
組長も皆も狂児も人が悪い。
でも、盛り上がった。心に響いた。
コンクールも無事に。
色んな意味で、人は愛を込めて歌う。
そう、愛!
またしてもここで、芳根京子副顧問の名言が飛び出すとは…。
一見緩いコメディだが、野木亜紀子の巧みな脚本、山下監督のツボを抑えた好演出もあって。
あれ以来、狂児とは連絡不通に。
カラオケ大会も終わった事だし、これで御役御免。
だけど、何故か寂しい。
聡実はこれから未来ある若者。その周りをいつまでもヤクザが居たら…。ひょっとしたら狂児が大人の配慮で身を引いたのかな…?
それとも、幻だったのかな…?
いや、おった。
今でも裏声が気持ち悪い、でも愛の籠った『紅』が聴こえる…。
そしていつかまた必ず、「カラオケ行こ!」。