「原作ファンの関西人にはつらい」カラオケ行こ! あさんの映画レビュー(感想・評価)
原作ファンの関西人にはつらい
生まれてこのかたずっと関西。
和山さんの漫画のファンで、ファミレス行こ!も雑誌で買って読んでる。野木さんのファンでもある。
この映画について、自分には見過ごせない違和感が3点あった。
1つ目は会話のテンポと謎の間(ま)。
原作を読んだとき、私は原作者が関西出身だと疑わなかった。
沖縄出身と知ってかなり経った今でも信じられない。
どれだけすごい関西弁監修者がいたとしても、
セリフどうこう以前のあの独特の関西のノリは畿外の人が創造できるものではないと思うからだ。
よく読み返すと、原作の漫画は非常にセリフが多い。
特に前半では、狂児が聡実の前でタバコを吸うのを止めるシーンや、聡実がヤクザの群れの前で土下座するシーンなど、意図して強調したいシーンでのみセリフが途切れる。
それ以外のキャラが2人以上居るシーンでは、ほぼずっと誰かが何かを喋っている。
これが関西人を唸らせる演出の1つだと思う。
関西弁が寸分の間もなく会話を続けるのに特化した言語なのか、関西人が辛気臭い間(ま)を嫌うのかは分からないが、
とにかく原作カラオケ行こ!が舞台としている世界、表現したかった世界にはほぼ会話の間というものが存在しない。
随所随所で挟まれる聡実のモノローグの存在も、その間の無さを一層強固にしていた。
短編という長さの制約のある物語で起承転結を描き切るのに、関西という場所は最も適した舞台なのかもしれない。
ところが実写版では、オシャレで思わせぶりな間(ま)の多いこと多いこと。
完全に好みの問題だが、原作の雰囲気とはかけ離れているなと感じ、かなり辛かった。
原作特有の気持ちのいいテンポを全部潰してしまっていた。
せめて聡実くんの独白だけでも挟めばよかったのに。
2つ目は関西弁の不自然さ。
メインから離れたキャラ、つまりモブキャラになればなるほど関西弁が自然だったので、メイン以外のキャスティングはかなり努力して関西弁ネイティブを登用していたんだと思う。
その点はとても良かった。
しかし肝心のメイン2人の関西弁がかなり聞き辛かった。
お2人の演技がとてもよかったからこそ、関西弁が演技のクオリティに付いていけておらず、非常にチグハグに感じられた。
交際相手が畿外の人間なので、ネイティブ話者以外の人間が関西弁を真似る難しさはよくよく理解している。
だからこそ、監修の方にはもっと頑張ってほしかった。
片方はとても著名な俳優さんなので、何度もNGを出せない苦しい心情はよく分かる。
だがあと一歩、あと一歩我を通してほしかった。
その方が結果的にも、俳優さんはじめ制作陣全体の利に繋がったと思う。
綾野さんについて、『顔は全然違うのに狂児そのもの』と前評判を聞いていたので、「どこがやねん全然ちゃうやないかい」とずっこけてしまった。
イントネーションのおかしさに加えて、喋る速度もゆっくりすぎた。
関西人、特に大阪の人間はあんなにゆっくり話さない。イラチだからだ。
恐らく多くの関西人が頭の中で喋らせていた原作のキャラ達は、実写の1.5倍は早口だっただろう。
3つ目は野暮な原作改変。
全てを原作通りにする事は望んでいなかった。
だが、余りにも改変が多い。多すぎた。
原作通りだとダメだったのか?と感じるようなシーンの差し替え・入れ替えが目立った。
特に気になった改変は狂児のパーソナリティについて。
原作の狂児は、男子中学生に声を掛けて半拉致する、そしてヤクザの巣窟に連れて行くという凶行を犯すが、
自分のテリトリーに引き摺り込む事はあっても、聡実独自のコミュニティに直接踏み込むことはしなかった。
謎の美学とデリカシーを持つキャラクターだった。
しかし実写版では聡実の中学校に入りまくり、学友に姿を見せまくり。
自分にとってはかなり残念な改変だった。
また、(前奏42秒の間に逃げられたなぁ…)に始まり、
いちご狩りに対する「シルバニアファミリーみたいやなぁ!」という反応や
「フリーザみたいやな」の後の顔文字を引き摺るシーンなど、
和山先生特有の独特のギャグが多くカットされていたのも辛かった。
以上、個人的な違和感3連発を並べたが、
逆に良かったシーンは、聡実のお母さんや合唱部のみんな、ヤクザのみんなの演技やテンポ感がとても自然だったところだ。
原作の雰囲気が最も映えるだけでなく、映像作品としても素晴らしい演出のシーンだった。
時を戻してこの映画を改善するとするならば、
まず、メイン2人のキャスト関西人にするか、またはメイン2人はそのままで関西弁指導をもっと徹底させる。
そして、映画の長さを30分くらいにする。
おしゃれで抒情的な間は全部カットする。
カラオケ行こ!は、テンポの良い掛け合いで割ととんとん拍子に話が進んでいくタイプの短編なので。
最後に、ラストでの野暮な通話シーンも消す。
ほんまに原作読んだんか?読んだとして、原作のどこが良いかほんまに理解できてたんか?
ヤクザが男子中学生にカラオケを教わる、そのキャッチーな設定だけを抽出して好き勝手再改変せーへんかったか?
気分悪なってきた 読んでくれてありがとう!