「原作を大事にしている映画、だからこそ少し残念」カラオケ行こ! 白藤さんの映画レビュー(感想・評価)
原作を大事にしている映画、だからこそ少し残念
原作を読んだことがあり、映画化になるにあたって「どうやって1巻完結の作品を100分程度の映画にするのだろう」と気になっていました。
原作が大好きなので、他作品より熱量があるレビューになるかと思います。長いです。おそらく。
映画オリジナルのシーンが多く、しかし原作の世界観を壊さないように、とても丁寧に作られたんだろうなぁと感じました。
漫画では書かれていない、コマとコマの間の空白の時間を埋めるのでさえ、丁寧に映像にされていたと思います。
また漫画では聡実くんの心の声が多いのですが、ナレーションなどは一切無いのですが、私は聡実くんの正直な容赦ない心の声が好きなので、心の声が入らない分、聡実くんの表情なりをもう少し見せてくれたら良かったなと思いました。
冒頭の名刺を渡されて「うわっ、ヤクザや」なども、もう少し演技で魅せてくれたらなと思いました。
その中で、原作では聡実くんはスクールバッグを使用していて、映画ではリュックになっているなど
小道具によって心理描写を分かりやすく視覚化しようとしているところは「うわ〜!策士だ〜!」と思いました。凄い。これが静止画と映像の違い…二次元が三次元になったことで表現の幅が広がるんだなぁと見せられました。凄い。
何回もカラオケに行くシーンがあるため、台詞の前後が入れ替えられていたり、原作を読んでいても改変の意図が汲める、本当に野木さん凄いなと思いました。
綾野剛さんの演技によって、成田狂児というキャラクターが、なんというか、中学生にカラオケ行こ!なんて声をかけるヤクザがいるとしたら、確かにこんなタイプかもしれないな…と思わせてくれました。
ガッチガチのヤクザ来たら絶対着いていかないですもん…。多分あれぐらいフレンドリーで、それでも雰囲気から絶対カタギじゃないと思わせてくれる。絶妙なバランス。
ビジュアルは原作に寄せていないので、これは綾野狂児です…!
キャラクターに人間味を持たせると言うか、原作を自分なりに噛み砕いて、愛を持っているんだろうな、天才的な役者さんだなぁと思いました。
齋藤潤さんは、初々しくてとても可愛らしかったです。
中学生って確かにこんな感じだ、ぶっきらぼうというか、子供でもないけど大人でも無い狭間みたいな絶妙なバランスでした。
狂児といる時は辿々しい演技で良かったのですが、同級生といる時はもう少し素の感じでも良かったかなぁと思いました。
逆に和田くんや映画部の子の役者さんが、そのあたりとてもリアルで良かったです。
もっと狂児の前と学校、家庭内の3カ所それぞれの中学生感見たかった…個人的になんですけど…
作品を通して、少し残念だったのは
合唱のシーンが、どうしても歌ってない感があったので、狂児に原作にはない天使の歌声と言わせるだけの歌を聞かせて欲しかったなと思いました。オリジナル要素を入れるなら、観客も同じ気持ちにさせる映像や音が欲しいなと。
聡実くんが自分から提案してそれぞれで練習しようと決めたのに、おまもりを渡すために自分から狂児に会いに行ってしまうのも流れが変わっていて、聡実くんの狂児への心境の変化の表現を変えたのは何故だろうと思いました。
仕方なくヤクザのいるエリアに入るのと、自分から会いたくて入ったのでは受け取り方変わるんじゃないかなと…
そこは見せ方の違い、未成年がヤクザに自分から接触するのは良く無いなどあったのでしょうか…
繋がらない電話に1人想いをぶつける聡実くんのシーン見たかった…
原作でそこで号泣してしまったので、映像として見たかった…!!!!!
どうして…どうして映像にしてくれ無かったのでしょう…
取捨選択の理由を製作陣に聞きたい…
合唱コンクールでは生徒が伴奏も担当することが多いのに、新しいキャラを追加して演奏させることに変化したのは何故ですか、とか
そこが実写化ではなく映画化の違いなのでしょうか…
変わっている部分が改悪じゃなく、丁寧に描かれていて作品のリスペクトが感じられるからこそ余計「ここを変えたのは何故だろう」が沢山あって、実写化の中では良い作品ですけど、少し物足りなかったです。
最後の聡実くん紅のシーンも、歌の途中に狂児映さない方が良かったのでは…と思いました。
原作通り、聡実くんと同じ立場で「いや生きてるんかい!!」を楽しみたかったです。
全体的にとても優しい雰囲気で、温かくて
聡実くんが狂児を幻だったのかと思うように、
現実であったら良いな、でもヤクザだから無理だよな、でも…と思えるような現実と幻の間をとても丁寧に、あり得ないけどあり得るならを映像にしていたと思います。
綾野剛さんの紅、カラオケメドレーも聴けて最高でした。
ギャグパートは本当に最高でした。