「中村哲さんが大きな河になるまでの話」劇場版 荒野に希望の灯をともす はなてんさんの映画レビュー(感想・評価)
中村哲さんが大きな河になるまでの話
アフガニスタンの無医地区で働く中村さんの目はどこか遠くを見つめる目をしていた。不条理で無情な運命の力を前にしてそれを潔く認めるような目だ。
貧しさと干ばつに苦しむアフガニスタンの人達の命を医療支援を通じて助ける行為は、乾いた大地に力なく咲く花に手を差し伸べる行為のように中村は感じていたのかもしれない。
「医療支援だけではここにいる人たちの苦しみの根本的に解決にはならない」という気づきから、中村は干ばつで緑を失った大地を復活させる事にこそこの土地で暮らす人の幸せをもたらす事に目を向け大規模な用水路の建設に自分の残りの人生を捧げた。
この大規模なプロジェクトは生まれ育った土地での生活を諦めて離れていった現地民の人たちの心を動かし、再びこの土地で生活できるようにと工事に参加するようになった。
工事が始まってから数年が経ち、やがてアフガニスタンの人たちは中村の力を借りずとも自分たちの力で用水路を引く工事を行う力を持った。
現地の人たちと共に働く中村には笑顔が増えて温かい眼差しで世界を見ているようだった。
これまで医療活動によって抱えていた中村の無力感に満ちた心が、用水路の建設を通して現地の人と喜びを共有することで再び豊かさを取り戻していったように感じた。
中村は大規模な用水路建設の際に、大自然の持つ河の流れに何度も打ちのめされてきたが、今は彼のこれまでの活動が、乾いた大地に絶えず恵みを与える川となり、アフガンに住む人だけでなく、世界中の人の心に豊かな力を与えている。
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