「今泉脚本には人間臭い湿度がある。」窓辺にて わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)
今泉脚本には人間臭い湿度がある。
心の底から良かった。
稲垣吾郎への当て書きということだけれども、この役柄を稲垣吾郎以外が演じると、内省的な感じとか他者への犠牲心とかを嫌味なく演じることができたのだろうかと疑わざるを得ないほどはまり役。相槌の打ち方がスマートだったりもする。
稲垣吾郎に限らず、登場人物がほとんど声を荒げるシーンがないのも今泉監督の映画を観てるなと思わされる。それが心地良い。でも登場人物の感情は確実にぐちゃぐちゃになってて、それがちゃんと伝わるのは長回しの演出と役者の演技のアンサンブルだと思う。
「感情を言葉にする」ことの難しさは、連ドラのsilentでも向き合っているところなんだけど、言葉をどう受け止めるかというところ(SNS描写など)にも踏み込んでいる作品の奥行き。
好きなシーンがとにかくたくさんある。
1番好きなのは、やっぱり若葉竜也と穂志もえかのファーストシーンのこそばゆい感じかな。どの穂志もえかも美しいんだけど、今泉監督が撮る穂志もえかが何倍も増してよく見えるのはなぜだろう。若葉竜也は「神は見返りを求める」に続いて軽薄な男を見事に演じてましたね。
志田未来の変貌とかも笑ってしまって。それでも飲み込んで生きていくことを決して否定しないし、最終的な稲垣吾郎が取った選択を否定しないのも今泉映画。容赦無いのに優しいんだよね。
「僕には必要のない本だった」というセリフは、自分も映画に使うことがあって、良く出来てることはわかるんだけど琴線には触れないというのが…同じベクトルで語っていいのかも分からないけど。
稲垣吾郎はフリーライターとはいえ、どうやって生計を組み立ててきたのかはかなり気になる。仕事してる様子は玉城ティナへのインタビューくらいで。
浮気は間違っているんだけど、そこすらも包み込む優しさがある。道徳的に反している登場人物すらもチャーミングに描くのが今泉映画なので、本当に好みでした。人間臭い湿度のあるセリフの応酬で、文庫本を読んだ感覚で、何度も読み返したい作品。
これが今泉監督ベストという人の気持ちもわかるけど、自分にとっての切実度で「愛がなんだ」と「街の上で」を上手に取る。