劇場公開日 2022年11月4日

「それぞれの愛の形」窓辺にて おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5それぞれの愛の形

2022年11月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

難しい

普段はあまり選ばないジャンルの作品なのですが、上映時間の都合がよかったので本作をチョイス。予告から予想していたとおり純文学を映像化したような作品で、この内容を受け取るにはそれ相応の人生経験や恋愛経験が必要ではないかと感じました。

ストーリーは、編集者である妻・紗衣が担当作家と浮気しているにも関わらず、それに怒りを覚えない自分にショックを受けたフリーライターの市川茂巳が、高校生作家・久保留亜に出会い、彼女と彼女の作品に惹かれながら、自身や周囲の人々の恋愛観を見つめていくというもの。

これといった大きな出来事は起きそうで起きないまま静かに進行し、主人公・市川茂巳の恋愛観を中心に様々な男女の恋模様が描かれます。映像的ないわゆる濡れ場は描かれませんが、男女の関係性はある意味では生々しく描かれていると思います。主な登場人物が文学関係者なので、それぞれが語る恋愛観や人生観が抽象的で、文学に造詣が深くない自分にはわかるようでわからないことばかりで、正直いってなかなか共感しにくいものがありました。それでも、終盤で人気作家・荒川円が市川に語った、「書かない理由」だけは感覚的に理解でき、すとんと落ちた気がしました。

単純でおもしろいストーリーを求める自分には、なかなか敷居の高い作品でしたが、小説好きな方には楽しめるのかもしれません。わかりやすい話ではないですが、それこそが単純な言葉では語れない、自分さえも正確には理解できない、複雑で矛盾に満ちた、それぞれの愛の形なのかもしれません。

主演は稲垣吾郎さんで、感情の振れ幅が小さな市川茂巳役がぴったりでした。中村ゆりさん、玉城ティナさん、若葉竜也さん、志田未来さんら、脇を固める俳優陣も安定した演技で作品世界への没入感を高めています。長回しや長台詞が多く、よけいなBGMも極力排除し、役者の演技力だけで各シーンを成立させている感じがすばらしかったです。

おじゃる