「ありがとう、インディ! そしてお幸せに!(再編集)」インディ・ジョーンズと運命のダイヤル N.riverさんの映画レビュー(感想・評価)
ありがとう、インディ! そしてお幸せに!(再編集)
本作は「ご褒美回」だったと思っている。
冒険というよりも、幾たびの危機を乗り越え冒険してきたインディーへ贈る、ご褒美回だ。
もちろん展開は激しく、わりあい人も死ぬ。けれど不思議と感謝とやさしさに満ちた、素敵な作品だった。
おそらくそれはスピルバーグが監督していなかったからではないか、と思っている。
観客としてシリーズを目の当たりにしてきた人たちが、楽しませてくれたお礼を、本作で成し遂げたような気がしている。
そういう意味で、本編、蛇足だったらどうしよう。やら、監督もスピルバーグではないし。など、心配だったが杞憂に終わっている。
今回も恒例のノンストップチェイス。
お宝狙いの三つ巴混戦。
贅沢にも陸海空を全網羅。
高い所をのぼり、洞窟で窮地に陥りと、王道攻めで、しかしながら冴えない少しヨボヨボなインディーがその全てへ立ち向かう活劇だ。
だが、あり得ないスーパーマンになることはない。その踏み外さないリアリティがあったからこそ応援できた本編でもあった。ままに物語が進めば、ハンデありきで立ち向かうインディーこそ格好良く見えてくるのだから、もうハリソン・フォードという演者にも唸らされている。
(逆にスーパーマン化していたら、シラけていただろう)
一番大好きな「最後の聖戦」では上映後、劇場で、馬に乗って走り去る姿へ
「ありがとう、インディー!」 と、手を振りたくてならなかった。だが今回は、
「ありがとう、そしてお幸せに!」と思わずにおれない。
まさか大冒険の果てにこんな穏やかな気持ちになるとは思わず、本当に最終作として無理なく無駄なく、美しく、最高だったと感じている。
シリーズの長さを思い知る、洞窟探検は懐中電灯(かつては薪に火)や、飛行機移動はジャンボジェット(かつてはプロペラ機)に、不意と猛烈に涙腺をやられたのは私だけか。
本作、あえて吹き替え版で観たのだが、変わらぬ村井邦夫さんのお声に、これでなきゃ、ともぐっときた。そんな村井邦夫さんへもお疲れ様! を伝えたい。
「007 ノータイムトゥーダイ」もそうだったが、かつての活劇ヒーロが老いた時、その後の結末をどう締めるかは、ジェンダーについてと同じくらい、近年のひとつテーマではないかと考える。
誰しも年を取り、昔のようには行かず。だからといってそれでもう終了、ではあまりに生とは刹那的で、何をしようと無駄だと悲しい。そこへどう理想を打ち立て、その理想で観衆を導いて行くのか。まさにモノツクル側の腕の見せ所でもあると思われるのである。
過去、女性で言えばシンデレラのその後のように、宇多田ヒカルも「終わってほしい所で、人生終わらない」と歌っているように、華麗なその後、現実へかえってからこそが観客にとっては喫緊の問題でもある。
作品はもちろん逃避、シェルターとしての役割も大きいが、そうした問題への良きビジョンを提供する役割もまた欠かせない。
本作には、その手本を見たような気がしている。
特に「007ノータイムトゥーダイ」が悲劇で終わっただけに、こちらのハッピーエンドは活劇の老後をなおも活劇で終えた良き作だった、と思わずにはおれないのである。