MEN 同じ顔の男たち : 特集
【「ミッドサマー」級の美しく恐ろしいトラウマ映画】
永遠に残る衝撃のラスト20分、ドラマからスリラーへ
急転 A24×「エクス・マキナ」監督は“尋常じゃない”
2022年も年の瀬を迎えるが、とんでもない映画が日本へやってきた。
タイトルは「MEN 同じ顔の男たち」(12月9日公開)。最大の特徴を一言でいうと“永遠に残るラスト20分のトラウマ体験”だ。そのインパクトたるや腰が抜けて膝が笑うくらいなので、映画ファンならば絶対に体感したほうがいい。
そして物語の導入はハートウォーミングな人間ドラマを予感させるが、ある瞬間に仮面を脱ぎ捨て、圧巻のスリラーへと表情を変える。名匠と世界最注目スタジオのタッグ、キャスト陣の類まれな怪演が創出した、美しくも恐ろしいトラウマ映画――。
この特集では、今作を[ネタバレなし]で解説・考察していく。その結末を直視せよ。
【目次】
[混ぜるな危険タッグ]映像美・センス抜群の“尋常じゃない”怪作、爆誕――
[物語が途方もなく尖ってる]「ミッドサマー」級“美しくも恐ろしい”展開が衝撃的!
[レビュー]常識外れのラスト20分に「何を魅せてくれてんだ」
【混ぜるな危険タッグ】A24×「エクス・マキナ」監督
映像美・センス抜群の“尋常じゃない”怪作、爆誕――
まずは今作のスタッフ&スタジオの手腕や、品質の高さから解説していこう。
●映像センス…アレックス・ガーランド監督、A24との究極タッグでさらに進化
監督・脚本はアカデミー賞視覚効果賞に輝いた「エクス・マキナ」や、2018年のベスト映画に多く挙げられた「アナイアレイション 全滅領域」を手掛けたアレックス・ガーランド。完ぺきな構図と、鮮やかな色彩による圧倒的映像美で知られる名匠だ。
そして製作は、「ヘレディタリー 継承」「ミッドサマー」で世界を根源的な恐怖で震撼させた、気鋭の映画製作・配給会社「A24」だ。
両者のクリエイティビティが化学反応を起こし、創出されたのは“美しき混沌”。ずっと観ていたいような、しかし目を反らしたくなるような、希望と不安に胸がざわめく映像体験をもたらす――。
●世界的評価…カンヌ国際映画祭に選出、「めまいを誘う傑作」と激賞
確かに超問題作ではあるが、同時に超話題作でもあり、そして世界の映画祭で称賛を受けたクオリティ・ムービーでもある。
世界三大映画祭のひとつ、第75回カンヌ国際映画祭では、芸術的な作品が集う“監督週間”に選出。さらに各有力紙や名監督が、こぞって絶賛評を寄せていることも特筆すべきだ。
「心が掻き乱される」 ――Variety
「唯一無二の世界」 ――CHICAGO SUN TIMES
「熱を帯び、目眩を誘う傑作」 ――エドガー・ライト監督
……主演のジェシー・バックリー(「ロスト・ドーター」でアカデミー賞助演女優賞候補に)は、ある女性の抱えるトラウマや苛立ち、不条理への嘆きを、言葉ではなく鬼気迫る芝居で表現しきる。
そしてタイトルロールの“MEN”に扮するロリー・キニア(「007」シリーズなど)は、笑い方ひとつで観る者をゾッとさせるほどの怪演、そしてタガが外れたような狂演を見せつけている。
いかがだろうか? 今作への期待がふつふつとわきあがってきたことだろう。では次に、具体的な物語と、急激な変化を見せる展開について詳述していこう。
【物語が途方もなく尖ってる】街は同じ顔の男だらけ…
「ミッドサマー」級“美しくも恐ろしい”展開が衝撃的!
「ミッドサマー」は“明るく美しい映像”と“恐ろしくも奇妙に爽快な物語”の融合が、ホラー/スリラー映画の常識を覆し高く評価された。
今作「MEN 同じ顔の男たち」も、同作に勝るとも劣らない映像の美しさ、物語の恐ろしさと爽快感を兼ね備えている。特に、物語展開がすさまじいのだ。
●ストーリー:“彼ら”が、来る。
夫の死を目撃してしまったハーパー(ジェシー・バックリー)は、心の傷を癒すためイギリスの田舎町へやって来る。彼女は豪華なカントリーハウスで、管理人のジェフリー(ロリー・キニア)と出会う。
しかし町へ出かけると、驚くべき現象に遭遇する。なんと少年や牧師、警官にいたるまで、出会う男すべてが“ジェフリーと全く同じ顔”だったのだ……。
さらに、廃トンネルから謎の影がついてきたり、木から大量のリンゴが落下したり、夫の死がフラッシュバックするなど、不穏な出来事が続発。ハーパーを襲う“得体の知れない恐怖”が、徐々にその正体を現す――。
●展開がすごい…癒やしの人間ドラマ → 震える圧巻スリラーへ急激スイッチ!
今作が面白いのは、物語が急激に変化していく点。本編開始直後は、傷心の女性が田舎で癒やされる人間ドラマだ。まるで映画「ホリデイ」のような可愛らしい町並みを見て、ハーパーと同じように心休まるひとときに身を浸す。
しかし、物語は次第に不穏なムードへ……ハーパーが禁断の果実とされる“リンゴ”をかじり、古今東西の作品で異世界への入り口として表現される“トンネル”へ足を踏み入れた途端、夢と現実の境界線は溶けてなくなる。ゾクゾクが全身を全力疾走する、圧巻のスリラーへと変ぼうしていく。
ジェットコースターのような過激な落差、尖りに尖った物語展開。感情も急激にアップダウンし、最初から純粋にスリラーをみせられるよりも、ずっと過激な映画体験を味わうことができるのだ。
最終的に「こんなの観たことない」と言葉を失うようなラストへと突入していくが……。
【レビュー】常識外れのラスト20分が“永遠に残る”
編集部もこれには唖然「何を魅せてくれてんだ」
映画.com編集部が今作を鑑賞してきたので、その感想をお伝えしよう。これまで監督とスタジオのクオリティ、物語展開の魅力について語ってきたので、最後は“テーマのアツさ”と“ラストのすさまじさ”を、驚がくしたテンションそのままに詳述していこう。
●テーマは<愛> ショックの向こう側に、胸をアツくする“再生と希望”
映画.com編集部:結論から言う。今作の映画体験は、鑑賞料を払ってお釣りがたんまりくるくらいの価値である。
その理由のひとつは、今作は実は“ある女性の再生と希望の物語”だからだ。癒やしの人間ドラマ→圧巻スリラーときて、中盤と終盤にかけては主人公ハーパーが(少々ショッキングだが)傷心から回復していく過程が、とてもメタフォリカルに描出されるのである。予想外に胸をアツくさせられて、これもまた嬉しいサプライズだった。
興味深いのは、ハーパーの回復は“怒り”によって動き出す点だ。どういうことかというと、この町の男たちは、女性に対する“有害な男らしさ”をさりげなく、しかし隠さずにぶつけてくる。これにハーパーは静かにキレる。そして行動を起こし、物語を控えめながらも、グイグイと前に進めていくのだ。
普通、田舎町での女性の再生譚というと「町の人々と交流し、あたたかさに触れ~」なんて想像しがちだが、今作はまったく逆。むしろ「この町の男たち全員同じ顔だし普通にクソ」「現実なのか幻なのかもわからないけど、今感じている怒りだけは最高に現実」という破滅的なエネルギーゆえハーパーは再生していく、という筋書きが非常に新鮮かつ疾走感があり面白かった。
「自殺する」と言って出ていった夫が、まさに死ぬ瞬間を目撃してしまったハーパーは、やがて“愛”という落涙もののテーマを体現する。今作は、ただ不穏な気配が漂うだけではなく、いたく感動させられる超問題作だった。
●永遠にトラウマになるラスト20分…実際に観ると“こうなる”
ラストの展開について、具体的なシーンの言及は差し控えたい。ネタバレはできないし、するつもりもない。実際にご自身の目で観て、トラウマを脳に刻みつけてもらいたい。
とはいえ、なにか語らずにはいられない……それくらいすごいラストだったのだ。なので「観たらこうなってしまう」というイメージだけをお伝えさせてほしい。
映画.com編集部の数人が鑑賞した直後に言い放ったコメントは、以下の4つだった。
編集部コメント①なんなんだこのラスト、何を魅せてくれてんだ(褒めてる)編集部コメント②この奇妙な爽快感、新感覚のゾクゾク感…人類の新たな扉を開く仰天映像編集部コメント③永遠に残るトラウマ…すごすぎる、感動するくらいすごすぎる編集部コメント④このラストをカンヌで上映したの? 伝説になったんじゃない?
ほかにも、さまざまな著名人が今作を鑑賞。その熱と波乱に満ちたコメントの数々を以下に紹介し、特集を締めくくろう。
自然豊かでノスタルジックな気持ちになる絵画のような田舎町を、狂気の悪夢が徐々に侵食していく描写が本当に恐ろしかった。
――ファイルーズあい(声優)
ガーランドにしか描けないアートで哲学な悪夢!愛憎が何処までも追ってくる。憎愛が産まれては死んでゆく。美しくも儚い、愛と憎のフーガ。Oh MEN!
――小島秀夫(ゲームクリエイター)
単一な「男たち」の顔に対して、主人公を演じるジェシー・バックリーの顔に
投影される恐怖、嫌悪、諦め、呆れた気持ち、不信感、軽蔑…それが「男たち」
を映す鏡!
――山崎まどか(コラムニスト)
アレックス・ガーランド監督が、『進撃の巨人』の影響と女性の恐怖から究極のMEN(男性)を創り出した!
この“ローリング・バース”は夢に出るぞ!
――町山智浩(映画評論家)
悪夢そのものな展開が脳裏にこびりついて離れない。
恐怖を越えて怒りみたいなものが湧いてきた。
――宇垣美里(フリーアナウンサー)