「私の常識と理解を超えている…!」MEN 同じ顔の男たち 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
私の常識と理解を超えている…!
久々にレビューに頭を悩ます作品を見た。
深いテーマや意味深なメッセージ、暗示めいたものなどが込められているのだろうが、あまりにも私の常識や理解を超えていて、あれやこれはどういう意味だったのか、そもそもこの作品は一体全体何だったのか、頭の中の整理が付かない。そして、ラストの衝撃たるや!
『エクス・マキナ』『アナイアレイション 全滅領域』の鬼才アレックス・ガーランド×『ミッドサマー』のA24製作。そりゃそうだわ。
不条理、衝撃、奇抜、不気味、怪作…どんな言葉を形容してもいい。いい意味で、何じゃこの映画は!?
一応話の入りは普遍的。
ロンドン郊外の田舎町のカントリーハウスに越してきたハーパー。
広くて贅沢なハウス、自然豊かで美しくのどかな雰囲気…新たな家、町、暮らしに満喫。
…が、いいのはそこまで。癒されほのぼのムービーは最初だけ…いや、開幕から本作は不穏な雰囲気を放つ。
開幕シーン。夫が自殺する場を目撃。マンションから落ちていく夫の視線と自分の視線がはっきりと見合ったように…。
これがきっかけで越してきた訳だが、精神状態は不安定。
それに拍車をかける出会いや奇々怪々な出来事…。
ハウスの大家。
面を被った少年。
司祭。
警官。
バーのマスターや客…。
皆、異様。大家はフレンドリーだが馴れ馴れしい。少年には罵倒され、司祭には夫の死の原因は自分にあると責められる。
極め付けは、家の周囲をうろつく全裸の変質者。この男は何者…?
逮捕されるが、警官はすぐこの男を釈放。
何か気に障ったり、あからさまにクソ野郎だったり…。
一体何なの、この町の男どもは…!?
さらにこの町の男たちは、皆が“同じ顔”をしている。
メイクや髪型や付け髭などで、個人個人印象は変えているものの、“ベース”は同じ。
これは一体、何を意味するのだろう…? 劇中でヒロインがそれを指摘する描写はナシ。
ヒロインにもそう見えるのか、別々に見えるのか…? 何かの暗示で、我々にだけそう見えるのか…?
女性を貶し、下に見る男どもの傲慢、欲…。男なんて誰も彼も“同じ顔”をしている…という事なのか??
作品は一気に奇妙な世界へ入り込む。まるで、出口の無い迷宮に迷い込んだように。
“同じ顔の男たち”は現に存在しているのか…?
終盤の男たちがハウスに侵入し、ヒロインに襲い来るシーン。あれもヒロインが実際に体験している危機なのか、それともヒロインが見ている恐怖の幻なのか…?
そもそもこの家、この町は“現実”なのか…? 仮に異空間に迷い込んだとしたら、それはいつ…?
あのトンネル…? 町に来た時、家の庭の“禁断のリンゴ”をかじった時…?
一体自分は何を見ているのだろう…? 何を見せられているのだろう…?(って言うか、ここまでで“?”を幾つ使ったろう)
もはやこの悪夢を見ているような奇妙な世界に、成されるがままに身を委ねるしかない。
もうどんなに常識と理解を超えて展開しようとも、こういう作品なのだ…と甘んじて受け入れる覚悟でいたのだが、それすら破壊してしまうあのクライマックス。
この衝撃と驚愕をどう言い表したらいいのか…。いやもう、言葉では例えようが出来ない。
不条理スリラーではない。SFホラー。
強いて言うなら、気持ち悪いものやグロい描写、訳が分からないものが苦手な方は見ない事をオススメする。トラウマ必至!
“復活と再生”“生と死”を象徴しているらしいが、何度でも言う。私の常識と理解を超えている…!
その果てに、まさかの誕生。その口から発せられるは、愛の欲し。
何度でも言う。私の常識と理解を超えている!
本作を好きか嫌いか問われたら、それすら返答に困る。
この作品は何を伝えたかったのか説明しろと言われても、答える事が出来ない。おそらくこの作品のほとんどを理解していないだろう。
が、アレックス・ガーランドがまたまた構築した美しく幻想的で、恐ろしく異様な世界観。映像、装飾、ビジュアル、音楽…。
ジェシー・バックリーの難演、ロリー・キニアの怪演…。
これらは特筆に値する。
特に同じ顔の男たちを演じ分けたロリー・キニアの怪演は強烈! オスカー級でしょう。やるじゃん、ミスター・タナー!
あのラスト、この作品そのもの…。
そうそう忘れ得ない。いつまでも脳裏にこびりつく。
またしてもアレックス・ガーランドに誘われたと言えよう。