「タイトルでネタバレ許すまじ」MEN 同じ顔の男たち SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルでネタバレ許すまじ
久々にすさまじくすばらしい胸クソの映画を観れた。傑作。ただ、これは絶対にカップルで観に行ってはいけない映画だろう。
これをどう鑑賞するのかはけっこう解釈の余地があると思うのだけど、僕は、「女性の男性に対する生理的な嫌悪」の物語だと感じた。
男性に対するキモイキモイキモイキモイキモイキモイ…の叫びが聞こえてくるよう。
これを男性の監督が作った(作れた)ということが信じられないくらい。
大家、少年、牧師、警官は、各年代、各立場での「キモい男性」の振る舞いを体現したかのような人物像。
女性に対するデリカシーの無さ、傲慢さ、無礼さ、配慮の無さ、礼儀の無さ…。
特に牧師は、紳士的で諭すような態度の反面、身体に触れてきたり、無自覚に男性擁護的な価値観をもっていたり、陰湿な「キモさ」が際立っている。
そして、この映画のキーは全裸の浮浪者だと思うのだが、彼は女性がもつ男性への「性的嫌悪」の象徴であり、半分神話的な存在であるように思う。
不潔で臭くてうす汚れていて、湿っていて得体が知れなくて、何か危害を加えてきそうな怖さがあって、急に家の中に侵入してきたりする唐突さがあって…。
この映画にはたくさんの謎があって、それらの解釈は観る人にゆだねられている。人によって全然違う解釈になりそうなところが面白い。
舞台となる田舎町で出会う男たちはなぜ全員同じ顔だったのか? これは、この物語が主人公(ハーパー)の夢、もしくは白昼夢のようなものだと示唆するためではないか。
というのは、この男の顔が、僕には「夢男(THIS MAN)」としか思えなかったからだ。それに、ハーパーが男たちが同じ顔であることを疑問に思うような描写がない。
これは、ハーパーにとってはすべての男が潜在的に嫌悪の対象になっている、ということも示唆していると思う。
教会で見た、「真実の口」のような彫刻は何なのか? あの彫刻は、片面に男性、反対側に女性が彫られているように見えた。
これは「男性への嫌悪」というものが、深い部分では「男性からの性欲」を向けられることへの嫌悪、そのような性的な存在である自分自身への嫌悪、そして、「生命を産む女性性」そのものへの嫌悪に根源的につながっていることを示唆しているのではないか? これはラストにつながってくる。
「リンゴ」は何を意味しているのか? 聖書では、イブがまず禁断の果実を食べ、次にイブがアダムにも食べるように勧めたことになっている。これが人類が初めて犯した罪(原罪)であり、これ以後、すべての人類は生まれながらに罪を背負う宿命となってしまった。要するにキリスト教では、リンゴは原罪の象徴であり、原罪を背負うことになったきっかけは女性であるので、女性の方が罪深い存在である、ということになる。
この映画でも、リンゴを食べたハーパーに対して、大家は「それは泥棒ですよ」とドキっとする言葉をかけている。リンゴは、ハーパーの罪悪感の象徴として出てきているのだろう。ただし、ハーパー個人の罪というよりは、女性であることそのものへの罪(を押し付ける宗教的価値観の象徴)として…。
「切り裂かれた腕」は何を意味しているのか? 郵便受けから出された腕は男根を思わせる。要するに男性性そのものの象徴だということになる。それをハーパーは切り裂いた。これは、ハーパーが(夫の)男性のプライドを切り裂いてしまったことを意味するのだろう。
「タンポポの綿毛」は何を意味しているのか? 言うまでもなく、これは男性の精子を意味しているのだろう。綿毛の1つを口から吸いこんだハーパーがこのあと見るビジョンからも、そうだといえる。
「男性が生まれ続けるビジョン」は何だったのか? これは、「生命を産む女性性」そのものへの嫌悪と、グロテスクさを表現したものだと思う。「生命の誕生」というと神聖な讃えるべきものだという感じがするけど、反面、非常に恐ろしい、グロテスクなものでもある。
最後の謎、ハーパーの死んだ夫の言葉、「僕を愛してほしい」という言葉と、それに対するハーパーの反応は何だったのか?
結局、男性の女性に対する望みというのは「愛してほしい」というただそれだけのシンプルなものだということか? しかしそれに対してハーパーは、冷たい表情をする。「愛している」ではなく、「愛してほしい」というのは、子供が親に要求するようなことであって、結局男性が女性に望むのは、そのような幼稚な関係性なのかもしれない。
それを見抜いたハーパーは、恐怖するでもなく、憐れむでもなく、諦めとも軽蔑ともとれる反応をした。「それがあなたの本心だとしたら、そんなあなたを愛せるわけないじゃん」って。
そういえば、「エクス・マキナ」では、男性が女性を勝手に理想的な存在に見てしまうことがテーマだった気がする。この映画のテーマはそのちょうど対の関係になるんじゃないか。
ちょっと惜しいな、と思ったのが、本来ならクライマックスで一番感情のピークが来るように鑑賞できたら良かったのだけど、クライマックスの展開が僕にはファンタジーすぎて、逆に冷めてしまって、ひいて見てしまっていた。
全裸の浮浪者が窓ガラスだらけの家の周囲を歩き回ってるあたりが、リアリティがあって一番怖かった。
あと、邦画タイトル「MEN 同じ顔の男たち」、これマジ最悪。「同じ顔の男たち」ってネタばれしてるじゃん!
「あれ? もしかしてこの町の人たちって全員同じ顔じゃね?」と自分で気づきたかった。その瞬間、絶対「ぞくっ」ってなったはずなのに…。