劇場公開日 2022年8月5日

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「被爆体験の語りの継承と、父と娘の対話という二つの糸がよりあわさった一作。」長崎の郵便配達 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0被爆体験の語りの継承と、父と娘の対話という二つの糸がよりあわさった一作。

2022年9月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

作家、ピート・タウンゼントの娘、イザベル・タウンゼントが、父が遺した長崎の被爆者についての作品『長崎の郵便配達』の足跡を辿る姿を追ったドキュメンタリー映画。

『ローマの休日』のモデルとして、ピート・タウンゼントの名前は聞いていたような記憶があったんですが、その後作家となり、『長崎の郵便配達』を著していたことは知りませんでした。本作は作品の足跡を忠実に辿るというよりも、イザベル・タウンゼントが作品を通じて父との対話を果たす過程を描いています。

作中ではあまり触れていないのですが、彼女は生前の父と、特に作家的な側面についてそれほど意見を交えてこなかったようです。この旅を通じて、ようやく作家としての父と向かい合うことができたことを何度か示唆しています。

「長崎の郵便配達の少年」こと谷口稜曄氏は、被曝直後に亡くなっていても不思議ではないほどの重傷を負いつつも奇跡的に一命を取り留めた方で、その治療の過程は長崎の被曝状況を記録した写真として、多くの資料に引用されています。その後被曝体験の証言活動など、核兵器廃絶を目指した運動に積極的に参加しており、その過程でタウンゼントと知り合うようになったようです。

本作では、タウンゼントの肉声がたびたび挿入されていますが、取材の過程でこれだけ多くの音声資料を残していたことは非常に驚くべきことで、作家としての彼の几帳面さ、取材対象に対する真摯さが伝わってきます。そしてこれだけ多くの、しかもクリアな音声が使われたことで、娘との対話という側面がより一層明瞭となっています。

yui