劇場公開日 2023年4月21日

  • 予告編を見る

「暗く陰湿なテーマを掲げラストまで押し切った意欲には脱帽しました。横浜流星が、主人公の変化を、すさまじい演技で見せているところが見どころです。」ヴィレッジ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0暗く陰湿なテーマを掲げラストまで押し切った意欲には脱帽しました。横浜流星が、主人公の変化を、すさまじい演技で見せているところが見どころです。

2023年4月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 人の目を気にし、多数派に流れる。立場が下の者に責任を押しつける。同調圧力や不寛容がはびこるムラ社会は、現代の縮図のようです。
 「新聞記者」の藤井道人監督の最新作は、人間のそんな愚かな側面を浮き彫りにしていく容赦のない描写に、圧倒されました。本作でもグイグイと作品世界に引き込まれていく力作です。

 物語の舞台は、夜霧が幻想的な、のどかな山あいにある霞門村。神秘的な「薪能」の儀式が行われている近くの山には、巨大なゴミの最終処分場がそびえ立っていました。
 主人公は、幼い頃より霞門村に住み、美しい村にとって異彩を放つこの施設の作業員として働く片山優(横浜流星)。給料はギャンブルにのめり込む母親が抱えた借金の支払いに追われ希望のない日々を送っていました。
 優は、過去に処分場反対派だった父親が起こした殺人事件の汚名を着せられ、事件の汚名を背負い、その罪を肩代わりするようにして生きてきました。そのため村長(古田新太)の息子透(一ノ瀬ワタル)に現場でいじめられても、地獄のような毎日を送っていても、人生の選択肢などなかったのです。
 そんな中、7年前に村を出た幼なじみの中井美咲(黒木華)が東京から帰ってきます。美咲も心に傷を抱えているようで、2人は次第にひかれ合っていくのです。
 村の広報になった美咲の抜擢で、処分場の案内係となった優は、子供たちの見学者相手に日々施設の説明をしていくなかで、今までの暗い表情から、好青年に変わっていきます。しかし、美咲に好意を寄せる透は優を敵視します。やがて透は行方不明となり、物語は大きく動き出します。

 美咲の手助けもあり、優は自信を取り戻し、村の顔とも言える存在となっていきます。それまで「犯罪者の息子」と呼ぶなど、優をさげすんでいた村人の態度が一変するさまが妙に不気味です。鮮烈な映像で、優の成功と転落を映し出していました。特に父が起こした事件や母の借金という負の遺産を背負わされた優の瞳の暗さが強烈です。息苦しい毎日を過ごす若者にとって、ささやかな希望を持つことがいかに難しいかが伝わってきます。同調圧力が強く、権力者への忖度にまみれた村の状況が日本全体を象徴しているようで、ひとごととは思えない一本でした。

 また村長親子は陰で不法投棄をビジネスとし、処理施設は経済格差と拝金主義、暴力と搾取の温床となっていました。それが発覚する発端に、霞門村で数少ない薪能の使い手であり村長の弟の大橋光吉(中村獅童)が関わります。彼の職業がボイント。まさに能の使い手だけに、本作の狂言回し的な存在です。

 映画は欲望にとらわれ、善悪の境界で右往左往する人間の姿を浮き彫りにしています。村に伝わる「能」の描写とあいまって、終始重い鎖につながれているような感触です。まさに村社会の暗部。その居心地の悪さが愛憎や陰謀が渦巻き、怒とうの展開を見せる最終盤に見事につながっていきました。能の演目「邯鄲」を思わせる物語です。
 暗く陰湿なテーマを掲げラストまで押し切った意欲には脱帽しました。

 作品ごとに全く違う表情を見せる横浜流星ですが、本作でも優の変化を、すさまじい演技で見せています。感情を表に出せず、葛藤する役柄は実に合っているのです。自身の最高の演技と言っても過言ではないでしょう。ラストショットで見せた表情が忘れられません。
 その後、エンドロールが始まっても、席を立たないことをお勧めします。

流山の小地蔵