劇場公開日 2023年4月21日

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「「捨てる」ということ」ヴィレッジ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5「捨てる」ということ

2023年4月23日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

予告でサスペンスフルな雰囲気を感じて興味をもち、公開初日に鑑賞してきました。確かにそんな部分もありましたが、全体としては後味の悪さが残り、思っていたのはちょっと違う内容の作品でした。

ストーリーは、犯罪を犯して自殺した父、パチンコと借金に溺れる母のせいで、絶望的な人生を強いられ、昼は村のゴミ処理施設で働き、夜は不法投棄に加担して、なんとか食い繋いでいた青年・片山優は、東京から帰ってきた幼なじみの美咲の誘いを受け、村の広報の仕事に就き、どん底の人生から抜け出すことができたのも束の間、ある事件をきっかけに歯車が狂い始めるというもの。

冒頭で邯鄲の夢が紹介されたことを踏まえると、本作は片山優の人生の浮き沈みを描こうとしていたのかもしれません。また、象徴的にインサートされる能にまつわるシーンは、本心を面で隠すこと、同じ面が並ぶ画一化、それが生み出す村民の同調圧力、村の閉塞感、受け手の自由な発想など、多くのことを暗喩していたのかもしれません。しかし、そのどちらも本作のテーマとして強く訴えかけてくるようには感じませんでした。

むしろ鑑賞後に最も強く印象に残ったのは「捨てる」ということです。本作で舞台となるのは、村の大規模なゴミ処理施設であり、文字通り捨てられたゴミが処分される場所。そして、そこで働く人は、悪いことだと知りながらも夜は不法投棄に手を染める、世間から捨てられたような人たち。

そういう場所と人たちにゴミを押し付けることで、平穏な生活を送る村民。汚いものや不要なものをゴミとして捨て、その行く末を考えようともせず、ただ視界から消えてくれればそれでよいと考えているように映ります。臭いものには蓋をしてバレなければよいと考える村長、優に「おまえはこの村に要らねーんだよ」と罵る透は、その象徴のようでした。

そうして築いたかりそめの豊かさは、問題の露見とともに音を立てて崩れ、今度は村自体が世間から捨てられます。やがて村民自身からも捨てられる日が来るかもしれません。それを早々と実行に移したのが光吉であり、ポストクレジットでの恵一の姿であったのだと思います。村にゴミを捨て、村が人を捨て、最後は村自体が捨てられるとは、なんとも皮肉なものです。

問題から目を背けるだけでは何の解決にもならず、むしろ先送りが最悪の事態をもたらすことは多々あります。本作で描かれるのは小さな村の出来事ですが、一人一人に突きつけられた気がしますし、この国自身の問題だと思えてきます。そういった問題提起をしながらも、本作が何ら解決のヒントも糸口も示さないまま終わることに、胸糞の悪さと後味の悪さを覚えます。

主演は横浜流星くんで、周囲に翻弄される青年の変化を見事に演じています。脇を固めるのは、黒木華さん、古田新太さん、杉本哲太さんらで、イメージどおりの役どころです。中でも、透役の一ノ瀬ワタルさんのハマり具合は秀逸でした。

おじゃる
大吉さんのコメント
2023年4月23日

一筋の光明のようなものがあればよかったかなと思います。

大吉