「未練と往生際の物語」天間荘の三姉妹 Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
未練と往生際の物語
高橋ツトムさんの漫画「スカイハイ」の本編は読んでいます。深い魂の哀しみや苦悩にまみれる内容ながらも、硬質な絵が迫力だったのを覚えています。
◉哀しい普通の景色
ありし日のままの姿と風景で、人と町が残っている。作品の前情報で、天間荘が魂の空間に在ることは知っていましたが、震災に遭った海辺の町が、途方もないファンタジーの力でそっくり残っている設定とは意外だった。広がりや癒しのあるファンタジーではなく、一人一人のこれまでや、これからに関わっていくファンタジーであり、死者の景色と生者の景色が入り混じって描かれる。
◉生を全うすることは残酷なこと
繰り返される「記憶の中に存在すれば、その人は永遠に生きる」と言う言葉。「リメンバー・ミー」の世界であり、亡くなった人を悼む気持ちと、覚えていることと、思い出すこと。つまり死者と如何に接するかと言う問題。
でも一方で、この言葉は生者のものであり、死にゆく者が「死ぬ」と言う行為をどう捉えるのかこそが問題。三瀬の人々は死者であることを知らなかったと言うよりは、目を背けていたんでしょうね。やはり、家族や仲間と離別して旅立つのが怖かった。
私もそこで生を全うしなきゃならない境界線にいたら、絶対に震えます。だからイズコがいても、まだ漂っていた。未練と往生際の綱渡りをずっとずっと続けていた。でも、現世に戻った二人の娘と老婆は別にして、三瀬の町の人々はまだそこに残っていても良かったのではないかと、思えてなりません。
往生際が悪い…のは悪いことではない。
◉往生際から現世へ
のんが境界線上で生をセレクトして、現世へ戻るVFXが、かなり不自然に見えました。
それと、のんたちと三田佳子さんとの再会シーンは良かったですが、死んだ町の人々とした約束を、三瀬の水族館で回収するシーンは、やや駆け足の感じが強かったです。ではどうすれば、映画の読後感に浸れたかと問われても、答えは用意できないのですが。その後の日々の暮らしの中で、次第に死者の言葉が生者に伝えられるのでは、尺が足りませんしね。
◉天国の海
三瀬の町に接する海の景色と、天間荘から訪れる海の景色が違うものに見えました。天間荘からの海の方が、より透明感が高かったような。つまり天国に近づいた証? 美しいより寂寥感が強過ぎて、ここは胸が詰まる感じでした。
のんさんは不思議な温度感みたいなものを結構、ぶっきらぼうにそして柔らかく醸し出しますね。むり押しはしない感じ。
大島優子さんが楚々たる若女将で、特に素顔に戻って眼鏡を掛けた表情がとても可愛いらしかった。門脇麦さんも、決して愛嬌はないけど、温かな感覚を与えてくれる。襖を開いて現れた寺島しのぶさんが、貫禄が有りすぎ。
そして、腰の低い永瀬正敏さんは永瀬正敏じゃない。
原作を読んだ方にしか書けない深いレビューですね。
教えられることたくさんありました。
いつも私のレビューに寄り添ったコメントありがとうございます。
海が本当に多くの表情を見せていましたね。
震災のシーンで見せる猛々しさ、夜の湾のシーン、
高良健吾が漁船に乗って天上へ召される(?)シーンなど、
震災以外は海も雲海も天間荘も美し過ぎて、それにイルカショーもあって、
気持ちいい・・・などと呑気な感想を書いてしまいました。
「腰の低い永瀬正敏は永瀬正敏ではない」
同感です。