劇場公開日 2022年6月17日

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「プーチンに暗殺されかけ、現在収監中の“未来のリーダー”をドキュメンタリー映画で観る同時代感覚」ナワリヌイ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5プーチンに暗殺されかけ、現在収監中の“未来のリーダー”をドキュメンタリー映画で観る同時代感覚

2022年6月19日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

怖い

興奮

知的

ともすると“悪のロシアvs正義のウクライナ”のように物事を単純化して見てしまいがちだが、ロシア人にもいろんな人間がいる、というごく当たり前のことを改めて思い知らされるドキュメンタリーだ。2020年8月に起きた暗殺未遂事件は日本でも報道され目にしていたものの、ナワリヌイという固有名詞を含めすっかり忘却の彼方だったが、その後の一連の出来事がこんなにもスリリングかつドラマティックで、なおかつ独裁国家の下で体制と闘う個人がここまで勇気と覚悟を示し得るのか、と驚かされっぱなしの約1時間半だった。

すでに多くの人が書いているように、各国のジャーナリストなど市民有志が参加するオープンソース調査組織「べリングキャット」の支援により、オンラインの闇市場から事件前後の搭乗客リストなどの情報を入手し、暗殺実行部隊の容疑者たちを絞り込み、彼らにナワリヌイが自ら電話していく一連の流れは、ありがちなスパイアクションをはるかにしのぐ緊迫感に満ち、ぐいぐいと引き込まれる。

ナワリヌイはドイツの病院で回復したのち、ロシアに戻れば拘束、収監されるのを承知で、マスコミを引き連れて帰国の途につく。2021年1月から現在まで収監中のナワリヌイは、21世紀に強大な力を握る独裁政権に個人が立ち向かうための方法を示しているのだと思う。マスメディア(この映画も当然含まれる)、インターネット、SNSを駆使し、情報を可視化することで、権力の横暴を牽制する。プーチン体制が崩壊し、ナワリヌイが指導者になる時代が来るなら、ロシアもきっと真っ当な国家として立ち直ると期待させる、ポジティブな希望が込められた力作だ。

高森 郁哉