プアン 友だちと呼ばせて : 特集
ウォン・カーウァイ製作、「バッド・ジーニアス」監督によるスタイリッシュ&エモーショナルなロードムービー
話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。名匠ウォン・カーウァイがプロデュース、「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」で注目を集めたタイのバズ・プーンピリヤ監督による新作「プアン 友だちと呼ばせて」が、7月29日から3日間限定で劇場公開前プレミア上映されます。
余命宣告を受けた男と親友の旅を、美しい映像と観る者の心を震わせる物語で描き、2021年サンダンス映画祭のワールドシネマドラマティック部門で審査員特別賞を受賞した本作について、映画.com編集部が見どころを語り合いました。
シネマ映画.comで今すぐ見るプアン 友だちと呼ばせて (2021年製作//128分/PG12/タイ バズ・プーンピリヤ監督)
<あらすじ>ニューヨークでバーを経営するタイ出身のボスは、バンコクで暮らす友人ウードから数年ぶりに電話を受ける。ウードは白血病で余命宣告を受けており、ボスに最後の願いを聞いて欲しいと話す。バンコクへ駆けつけたボスが頼まれたのは、ウードが元恋人たちを訪ねる旅の運転手だった。カーステレオから流れる思い出の曲が、かつて2人が親友だった頃の記憶をよみがえらせていく。そして旅が終わりに近づいた時、ウードはボスにある秘密を打ち明ける。
座談会参加メンバー
駒井尚文(映画.com編集長)、和田隆、岡田寛司、今田カミーユ
■「バッド・ジーニアス」で注目されたタイの新鋭の新作、ノスタルジックなトーンが新鮮和田 「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」など、近年のタイ映画の勢いは知っていましたが、ウォン・カーウァイとタイの新しい才能、バズ・プーンピリヤ監督が融合するとこうなるのかと驚き、新鮮でした。
駒井編集長 ウォン・カーウァイの過去作を見たくなる映画でした。見終わって「恋する惑星」探しに行ったら、どこも配信やってないんですね。あのBMWがめちゃめちゃ渋い。これもまた「ドライブ・マイ・カー」案件でしたね。
岡田 ウォン・カーウァイの代表作を4Kレストア版を上映する特集「WKW 4K」が8月19日から始まるので、そちらで是非……という感じですね(笑)。ただ「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」の高揚感を求めてしまうと、ちょっと違うのかもしれません。結構ストレートな青春ロードムービー。ただし、後半でめちゃくちゃ捻ってくるタイプのやつです。
今田 スタイリッシュな映像と、フレッシュな俳優陣、じんわりと心が温かくなる友情&恋愛の物語を素直に楽しみました。NYのペントハウス、高級車に時計など、最近の日本の若い世代向けの作品には描かれないような場所やアイテムがキラキラして見えましたね。カセットテープがレトロでおしゃれなキーアイテムになっています。
和田 ニューヨークからバンコク、思い出の曲、かつて親友だった頃の記憶、車、ロードムービー、ノスタルジー……私はウォン・カーウァイ「欲望の翼」を思い出して見たくなりました!
駒井編集長 全体的に、80~90年代のトーン&マナーでしたね。それこそ、ウォン・カーウァイの全盛期。日本で言うところのミニシアターブーム。時代は流れて、今、タイでそういう映画を作っているというね。
■NY、バンコク、リゾート地……リッチな旅行気分も楽しめる駒井編集長 ニューヨークにもタイ人コミュニティがあるんでしょうかね。今は案外、日本人よりもタイ人の富裕層の方がリッチなのかも知れないなあと思いました。現実的な話をすると、今、NYは家賃が高くて、1カ月7000ドルは普通にするんだって。あの映画に出てくる部屋なんて2万ドルとかそんなレベルですよ。
和田 ニューヨーク舞台のタイ人コミュニティの映画はまだあまり見たことないですね。これを機に増えてくるかも。
今田 経済的な豊かさが文化的な豊かさにもつながるのだな……とこの作品でしみじみ思いました。ロケも多く、お金かかってそうですよね。
駒井編集長 確かにバジェットは相当かかってる。さすがにNYロケは俳優ナシで2ndユニットだけだと思いましたけど。「バッド・ジーニアス」の10倍はいってるでしょ!
岡田 「バッド・ジーニアス」は設定的に、ほぼ室内でいけますからね…(笑)。ロードムービーはお金がかかりますよね。
駒井編集長 タイの最初の2つの町は知らないところでしたが、チェンマイとかパタヤとか出てきて興奮しましたね。めちゃめちゃタイに行きたくなった。
岡田 タイ、行ったことないんですけど、僕もめちゃくちゃ行きたくなりました。楽園みたいでした……。あと、どうせ予告編だけにしか使わないんでしょ、と思っていたら、冒頭で「whiplash」(「セッション」でも有名)が流れたところは「おっ!」となりました。音楽の要素にも注目して欲しいかもです。
■タイのフレッシュな俳優陣が魅力的!今田 音楽と言えば……メインの青年ふたりはもちろん、劇中のDJの方が良いキャラクターでしたね。
駒井編集長 俳優陣に知った顔がひとつもないので、すごく新鮮で楽しめました。ストーリーの中で、主人公のお母さんが、ある日突然お姉さんになったってのありましたよね? あれ、どういう意味ですかね?
和田 お金持ちと結婚するために、息子を弟と偽ったと。若い時に産んだ子なんでしょうね。
駒井編集長 ああ、そういうことか。夫とは年がけっこう離れてましたね。
和田 ボス役のトー・タナポップは185センチの長身を生かしモデル、俳優、歌手としてマルチに活躍する超人気者だそうです。そして、友人のウードを演じたアイス・ナッタラットは役作りで17キロもダイエットしたそうですよ。
今田 女優陣も皆さんそれぞれの個性があって魅力的でした!
■クリストファー・ドイルのような映像美 撮影、編集にも注目和田 まるでウォン・カーウァイ作品の撮影監督クリストファー・ドイルの映像を想起させるカラフルな色彩が印象的でしたが、現在と過去を行き来する展開、編集にも凝ってましたよね。
駒井編集長 ホント、クリストファー・ドイルかと思いましたよね。撮影は素晴らしかった。
岡田 撮影は「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」に続き、パクラオ・ジランクーンクムさんです。このタッグで、今後も作っていくんでしょうね。
駒井編集長 タイのアカデミー賞みたいなのがあったら、10部門ぐらい受賞しそう。
■イケメンふたりの恋愛遍歴を辿る旅 非日常な設定が映画的で面白い今田 余命宣告された人物が出てくる物語の中で、生まれ変わったら…など、輪廻転生の考えがナチュラルに入っているのが、仏教国のタイ映画らしいですよね。
和田 なるほど! クライマックスからもう一つの物語が始まるという展開も新鮮でした。
駒井編集長 それにしても、元カレが突然訪ねてくるってのは、とっても迷惑な話だと思うのですが、今田さんならどう対応しますか?
今田 まあ、ああいう事情なら仕方ないですよね……。若い日の短いお付き合いでも、誰かが誰かの人生に影響を与えているというテーマが素敵です。
駒井編集長 途中で、こいついったい何人とつき合ってたんだよ。あと何人の家に行くんだよって思いましたよ。
今田 それは思いました! メインキャラの男の子ふたりとも!
岡田 ストーリーを引っ張っていくのが“ふたりともプレイボーイ”ってのは、ちょっと珍しいかもです。
駒井編集長 言われてみれば、確かにそうだね。
今田 “元カノ”の女性たちは、バーテンダー、ダンサー、女優さんなど、みんな自分の夢を持って、キラキラしてましたしね。
岡田 「バッド・ジーニアス」でブレイクしたオークベープ・チュティモンさんは、駆け出しの女優さん的なポジションで出ていますが「これ、どういうストーリー(=劇中作品)なんだよ」と思いながら見てました。結婚式と銃……。 鳩も飛びますから、ジョン・ウー要素もありましたね。
駒井編集長 鳩、飛んでたねえ。ジョン・ウーの顔が浮かぶよねえ。
今田 あれは謎でしたね笑。私たちの平凡な人生にもありそうな日常系ラブストーリーではなく、全体的に非日常な感じが新鮮で面白かったです。
和田 突然訪ねられたことで、彼女たちの日常や人生が少し変化するというのも切なくて良かったです。
■実は監督もかっこいい!駒井編集長 主人公ふたりも若いけど、監督もまだ若いんだっけ?
和田 1981年生まれですね。
岡田 ちなみにめちゃくちゃかっこいいです。自分でバー経営してるみたいですよ(脚本執筆中に店をオープン)。
駒井編集長 アラフォーのイケメンなのか。「バッド・ジーニアス」は30代ってことだね。次回作も大変楽しみですね。
今田 カクテルでも飲みながら友人同士で見ると、昔の恋バナや打ち明け話などして盛り上がれそうな映画です! シネマ映画.comで今すぐ見る