「中島裕翔は熱演するも、主人公の行動に大疑問符」#マンホール 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
中島裕翔は熱演するも、主人公の行動に大疑問符
昨年のサッカーワールドカップにおける日本代表は、前半失点されて劣勢に立たされたものの、後半途中出場した三苫選手や堂安選手がゲームチェンジャーとなり、見事逆転してドイツとスペインを破って決勝リーグに進出するという劇的な展開となりました。
映画をサッカーに譬えるのが適当なのか分かりませんが、本作「#マンホール」をサッカーに準えるなら、序盤の主人公の不可解な行動でイライラさせられて失点が重なり、中盤は小康状態が続く展開。終盤になって三苫選手・堂安選手よろしく大どんでん返しを投入して形勢の逆転を図るも、結局辻褄が合わず失点を重ねて大敗北を喫したという感じでした。
そもそも本作は、中島裕翔演ずる主人公の川村がマンホールに落ち、そのマンホールから川村が脱出しようと奮闘する姿を描く物語です。時間的に8割以上の場面がマンホールの中で展開される”ワンシチュエーション物”で、その間川村はスマートフォンを駆使して救助を要請します。電話相手の声や、スマートフォンの画面上のSNSを通して登場する人物はいるものの、基本川村のみが登場する、実質一人芝居でした。中島裕翔そのものは、先発スタメンとしてスタートからピッチに立ち、三苫選手や堂安選手にも負けず劣らぬ熱演をしていたと思うのですが、残念ながら彼が演ずる川村の行動は、信じられないほどあり得ないもので、残念ながら許容の範囲を遥かに超えていました。
具体的に言うと、翌日に結婚式を控えた川村は、その前夜に会社の同僚が主催する祝賀パーティに出席する。会場は渋谷らしい。結構酔っぱらった川村は、同僚たちと分かれて帰途に就く途中、深さ5メートルはあろうかというマンホールに落ちてしまう。太ももに重傷を負いながらも、錆びた梯子を使って脱出を試みるが、梯子が壊れて失敗。万事休すかと思われたものの、よくよく鞄を探してみると、スマートフォンが使えた!
さあ、こんな場面であなたならどうする?
私ならまずは110番か119番に電話して、救助を求めるに違いないのですが、川村はフィアンセに電話する。まあこれは百歩譲って許容するとしましょう。確かに明日結婚式なのだから、まずはフィアンセにこの状況を伝え、救助を要請するとともに、結婚式に出席できない可能性があることや、そして何よりも命の危険に晒されていることを伝えるのは、ある意味自然かも知れない。しかしフィアンセは既に寝ているのか、電話を取らない。
こうなれば110番か119番に電話するしか考えられず、それ以外に電話するなんてあり得ないのに、川村は友人や同僚、果ては元カノにまで電話しまくるだけで、一向に110番や119番には電話しない。ようやく元カノに繋がるものの、救助を求められた元カノも「はあ~?」という当然の反応。まずは地元の警察に電話したらと言われ、川村はようやく渋谷の所轄署に電話する。事情を説明するものの、電話を取った警察側の反応は酔っ払いの戯言か悪戯と思ったのか訝し気で、川村のイライラは募る。それでもGPSで把握した自分の所在地を伝えて捜索と救助を依頼する。しばらくして警察から連絡があったが、そのようなマンホールはないと言われ、ブチ切れて電話を切る。
次に川村が取った行動も、あり得ないものでした。この状況で唯一の望みはスマートフォンが使えること。にも関わらず、川村はスマートフォンをマンホールの口に向かって放り投げ、外の様子を撮影しようとする。でも失敗してスマートフォンが外に出てしまったり、ぶつかって故障してしまったら唯一の頼みの綱が消えてなくなってしまうのに、こんなことするか??
再度百歩譲ってこの行動を許容するにしても、そうして撮影したマンホール内外の動画や写真、さらには自分が怪我をしている写真などを警察や消防に再度送って救助を求めればいいのに、川村はこうした動画や画像をTwitterっぽいSNSに女性のアカウントを作って投稿。なんとSNS上で助けを求めたのだ。
まあ警察や消防に救助を求めても、場所が分からない以上直ぐには助けに来られない訳で、SNSで救助を求めるのは一つのアイディアではあるでしょう。しかし仮に場所が特定されても、深さ5メートルもあろうかというマンホールから怪我をした大の男を救出するのは、素人では到底無理。脱出出来ても救急車で病院に運んで貰う必要がある以上、どう考えても警察や消防の手を借りる必要があるでしょうよ。
以上、長々と前半部におけるイライラの原因を書き連ねましたが、私はこの時点でもうお腹いっぱいでした。冒頭にも書いたように、終盤大どんでん返しも用意されていますが、これもよくよく考えると辻褄の合わないことばかり。ここでは詳しく書きませんが、この仕掛けも不発に終わりエンディングを迎えてしまいました。
サスペンスとかスリラー、さらにはホラー的な要素もある映画なので、前提条件として現実にそぐわないこともあるでしょう。別に私もそうした前提条件、例えば深さ5メートルのマンホールの底には、携帯の電波は届かないだろうとか、携帯のバッテリーが無限に続くのはおかしいだろうとか、水に濡れたらタッチパネルをスムーズに操作できないだろうというような話をしたい訳ではありません。
「貞子」で言うなら、テレビから髪の長い女のオバケが出て来るなんてあり得ないだろって言うような話を言いたいのではありません。それでは「貞子」は成り立ちません。
問題は、その作品の世界線の中で、登場人物がいかに納得感のある行動を取るかという話なのですが、本作では残念ながら全く納得感がありませんでした。主演の中島裕翔が体を張った熱演をしていただけに、非常に残念なストーリーでした。
そんな訳で評価は★2としたいと思います。