「登山家の矛盾」神々の山嶺(いただき) 梅★さんの映画レビュー(感想・評価)
登山家の矛盾
私自身、登山のお話は好きでYouTubeでよく動画を見ていたのでマロリーの話等の前提はある程度分かった状態での観賞。
世界最高峰の山へ挑むということは滑落の危険の他、高山病や凍傷、雪崩や風速数十メートルの突風等の人の命などいとも容易く奪われてしまう超極限の世界へ足を踏み込むということ。
しかしそんな山の魅力に取り憑かれ人生の全てを捧げた男の物語。
登山家羽生丈二、無骨で口が悪く一見冷酷だが面倒見が良く口先だけの人間よりよっぽど信頼できる。
しかし山登りにおいてこの性格はプラスになるとは限らない。1つでも選択を間違えれば命を落としかねない状況で冷徹な判断を下すことができない彼の性格は彼の最期を予兆させる。
世の中には口が達者で山を登るより講演会をしたりクラファンで資金を集める時間の方が長い登山家もいるが、彼に少しでもこのような世渡り上手さがあれば結末は変わっていたかもしれない。
実力を伴わない者が山を登るということがどれだけ危険なことかというのは羽生自身も十分に分かっていただろうが、誰よりも山の魅力に取り憑かれてしまった彼にはその気持ちを無下にすることはできなかったのだろう。文太郎のお姉さんは山についての知識がなく危険性を理解しないまま弟を送り出したのだろう。だが側から見ていると何で連れて行くんだおかしいだろう?とも思ってしまう。これが危険な山に自ら赴く者とそうでない者の違いなのだろうが、文太郎も素人ではないのでもう少ししっかり登山をしている描写があれば違った見方ができたのではとも思った。
そして深町。彼は登山し馴れているとはいえ本業はカメラマン。エベレスト登山に1人で羽生についていけるわけないだろうと観客である私は思ったが、案の定、命の危険に陥り羽生に助けられ途中で下山する。
この行為のせいで、羽生は体力を削られ、登山スケジュールが遅れたことにより天候不順に巻き込まれる。
結局、冒頭に羽生自身が言っていたように1人で登った方が良かったのではないかという結末になってしまうが、彼自身理性では分かっていても山を愛する者を拒むことができない、理屈ではない山の魅力に取り憑かれた男の生き様だった。
この作品で1番引っかかるところは、人物の絵柄はあれで良かったのだろうかということ。山の景色の描写は良かったし山登りの1つ1つの作業が丁寧に描かれていて好感を持てた。
しかし最近のアニメーションのクオリティの高さに見慣れてしまうと、細かければ良いというものではないが、映画館の大きなスクリーンで観るにはちょっと線が少なすぎるというか人物の書き分けも不十分で一瞬誰だか分からない場面もあり、それが終始気になりもう少しどうにかならないかと思った。