「リメイク元を未見の方が楽しめるかも」1秒先の彼 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
リメイク元を未見の方が楽しめるかも
2020年台湾製作、2021年6月日本公開の「1秒先の彼女」は、若干気になる部分はあるものの大好きな作品で、当サイトの新作評論枠に自分から寄稿したいと当時の担当編集者に打診して了承してもらった経緯がある。気になる部分については、評で「恋慕の情に突き動かされた行動が相手の気持ち次第でロマンチックにもセクハラにもなるという難問をはらむ」と書いた。
その後日本でリメイクされるとのニュースがあり、監督・山下敦弘と脚本・宮藤官九郎という才人2人のタッグと聞いて期待は大いに高まった。男女の設定を入れ替えるのはなるほどと思ったが、岡田将生と清原果耶が主演という点には少し悪い予感が。念のため言うと2人とも演技力があり魅力的な俳優だと心から思っているが、世間のテンポからずっとずれたまま生きてきて疎外感を抱える男女を演じるには、岡田も清原も華があり過ぎると心配したのだ。オリジナルの台湾版は、郵便局員シャオチー役の女優とバス運転手グアタイ役の男優、どちらもほどよく地味目のルックスで、親友も恋人もできないまま社会人になったんだろうなと信じさせてくれるし、だからこそあの失われた1日に2人に起きる奇跡(および以降のそれぞれの行動)が尊い輝きを放っていた。
さて、リメイク版の「1秒先の彼」。案の定、岡田将生が演じる郵便局員ハジメも清原果耶が演じるレイカも隠しようがなく美男美女で、多少テンポがずれていても周囲が放っておくわけがない。ずっと孤独だったという設定が無理だと感じたか、ハジメは利用客のおばさん達にちょっと人気があることになっているし、妹・舞(片山友希が判別不能なガングロギャルに変身。ドラマ版「セトウツミ」での清原との掛け合いが良かったなあ)とその彼氏と同居していることに。これは先月公開の「水は海に向かって流れる」のレビュー枠でも指摘したことだけれど、原作では地味で目立たないキャラクターなのに、実写化やリメイクに際して美形のスターやアイドルを起用し手堅く稼ごうとして、結果的に元の魅力を損なってしまうのは日本の商業映画の構造的な問題ではないか。
そして懸案のセクハラがらみの要素も、結局男女を入れ替えただけで、ほぼ無批判のまま原作を踏襲している。オリジナルの「1秒先の彼女」の当サイトレビュー枠では、「身動きがとれず意識もないシャオチーに対してグアタイがとった行動には、SF映画『パッセンジャー』を観た時に感じた居心地の悪さもあった」と書いた。この部分について、山下監督とクドカンなら驚くようなアイデアで解決してくれるのではと期待したが、残念ながら当てが外れた。たまたま今年再放送されているNHK朝ドラ「あまちゃん」を面白く鑑賞しているだけに、脚本次第でオリジナルを超える可能性もあったのではと惜しまずにいられない。
あの演出等をを、セクハラだって言い出す、理解力の乏しい、つまらない観客がいるから、表現作品がどんどんつまらなくなっていくと思ってる。
日本版製作者は、そんなつまらない意見に真っ向から戦った演出を選んだんだと思います。
台湾版のレビューも拝見し、同じ印象を持っていましたので、本作のレビューを拝見するのを楽しみにしていました。
セクハラ絡みの要素の扱いについて、完全に共感します。画期的なアレンジを期待していましたが、女性にやらせたらOKという感じでもやもやしました。