「人間関係等におけるブラックカルチャーのノリに好き嫌いが分かれる作品では?」NOPE ノープ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
人間関係等におけるブラックカルチャーのノリに好き嫌いが分かれる作品では?
解説に「『ゲット・アウト』『アス』で高い評価を受けるジョーダン・ピールの長編監督第3作」とあり、これが3作目かと驚いた。どれも大きな話題となった佳作ばかりではないか。
1、2作と同様、本作もストーリーが念入りに作られており、意外性があるのに決して奇をてらっていないのがいい。
ストーリーとしては、①自分の飼育する馬をTVドラマで売り出し成功を狙う主人公ヘイウッド兄妹のチョンボの連続によるあえない沈没、②子役時代にショービジネス界で成功しながら今はつまらない西部劇パークの経営者に収まっているリッキーの数奇な運命、③UFOらしきものの撮影によりぼろ儲けを企む人々のドタバタ劇――の3つをサブストーリーに、後半から④UFOならぬUMAの襲撃と、その撮影と撃退に挑む人々のアドベンチャーがメインストーリーとして浮上する重層性に特徴がある。
また、登場人物のキャラクターは主人公たちだけでなく、脇役の造形もしっかりしている。
主人公のヘイウッド兄妹の性格、言動のアンバランスさ、過去の栄光を売物にしつつ、大きなPTSDを抱えているリッキー、儲け話に抜け目なく手を突っ込む男エンジェル、芸術家肌のカメラマン・ホルスト…これらの人物像が個性的な魅力を持って丹念に描かれている。
ピール作品の特徴はまた、全編を貫く黒人要素にある。1、2作では黒人差別に対し必死に抵抗して、勝利を収める黒人の姿が描かれていた。
本作では黒人差別の色彩は薄らいだものの、キャラクターや人間関係のノリにおけるブラックカルチャーが色濃く打ち出されており、それに慣れていなかったり、好きになれない観客には、特に前半部分でなかなか映像にのめり込めない原因になっている。
実は小生もこの手のノリに違和感があり、主人公兄妹に感情移入できず、退屈のあまり途中で眠り込んでしまった。特に妹エムの鬱陶しすぎる自己アピールや軽薄さにウンザリさせられたのである。これではイカンと再度見直してから、本作の面白みが分かってきたのだった。他のレビューを見ても、似た感想を持った人も少なくないようだ。
この辺は慣れの問題なのか、もっと奥深い価値観に根差しているのか、残念ながら今はまだ分からない。