「難しいこと考えなくても楽しめ、深く考えることで更に楽しめる」NOPE ノープ といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
難しいこと考えなくても楽しめ、深く考えることで更に楽しめる
ジョーダン・ピール監督作品は『ゲット・アウト』『アス』に続いて三作目です。製作脚本を務めた前作の『キャンディマン』は観ていません。ジョーダン監督はこれまで黒人の差別問題や貧富の差などについて描いてきました。そのような重いテーマを内包しながらも、しっかりエンタメとして楽しめる作品を生み出している素晴らしい監督ですね。
本作もまた、映画を始めとするショービジネスに潜む差別問題を、黒人を主人公とするUFO映画として描いてみせました。エンタメとして楽しむだけでなく、劇中の随所に忍ばせたメタファーやオマージュを探すのも楽しめます。観て楽しい・観終わってからも楽しい。素晴らしい映画でした。
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代々馬の牧場を経営するヘイウッド家。映画に出演する馬を飼育・調教することを生業としていた。半年前に飛行機からの落下物の直撃を受けたことで父親が突然亡くなり、牧場を継いだOJ(ダニエル・カルーヤ)であったが、調教師として非常に優秀であった父にはなかなか及ばず、仕事は激減。飼育している馬を売却することで何とか牧場運営を続けてきた。そんなある日、OJと妹のエメラルド(キキ・パーマー)は牧場でUFOのような円盤状の飛行物体を目撃する。UFOを撮影して映像を売れば一獲千金を狙えると踏んだ兄妹は、自宅に監視カメラを設置し、UFOの再来を待ち構える。
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突然現れた謎の飛行物体。それを撮影するために奮闘する兄妹と電気屋のUFOオタク。過去の体験に固執するテーマパークの園長。そして終盤に仲間に加わる映像監督。キャラの魅力がしっかりあって、人間ドラマが面白い。思ったより恐怖演出は少なかったので、ホラーがあまり得意でない私でも問題なく鑑賞することができました。
監督の前作『アス』を鑑賞した時も思ったんですが、色んなメタファーっぽい要素があるけれどそれらの解釈は観客に委ねるような作品になっていたため、鑑賞した人によって感じ方は様々だと思います。鑑賞後に語り合うのも楽しい作品のように感じます。突如現れた謎の飛行物体(Gジャン)は、何のメタファーなんでしょうか。
本作のレビューを色々見てみると、UFOとヘイウッド兄妹について、「映画製作者と観客の関係性を表している」とか「白人と有色人種の関係性のメタファーだ」とか多くの意見がありますが、私は「利用する側される側の逆転」について描かれているように感じました。
UFOを利用して一獲千金を目論む兄妹・UFOを利用して自分のパークにお客さんを呼びこむ園長・「不可能」を撮影するためにUFOを利用する映像監督など、本作に登場するキャラクターたちは、みんなUFOを利用しようと考えています。しかしながら、彼らの多くは利用しようとしたUFOに逆に餌として食われてしまうんです。「これまで食い物としてきた相手に逆に食われてしまう」というのは我々の日常生活でもたまに見掛けることですが、本作ではそれが文字通り行われるワケですね。
もちろん、これは私個人の解釈ですので、観る人によって十人十色の解釈があると思います。色んな方々の解釈を聴いてみたいものです。
劇中に何度も登場するチンパンジーのゴーティの虐殺シーンですが、おそらく元ネタはトラビスというチンパンジーでしょうね。アメリカで飼育されていたチンパンジーが飼い主の友人を襲い、大怪我を負わせた事件です。元ネタを知らなくても楽しめるとは思いますが、この事件はその後のメディアでの動物出演や動物飼育に関する規制に大きな影響を残した事件ですので、知っておいて損は無いかと思います。
ジョーダン・ピール監督らしさをしっかり残しつつも、今までにない全く新しい映画となっていました。本当に面白かったです。オススメです!!