「どいつもこいつも"頭上の悪魔"に首ったけ!! 搾取されてきた者たちが搾取する側に廻った時、醜悪な現実が露呈する... 牧場の兄妹がUAPの大捕物に挑む映画」NOPE ノープ O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)さんの映画レビュー(感想・評価)
どいつもこいつも"頭上の悪魔"に首ったけ!! 搾取されてきた者たちが搾取する側に廻った時、醜悪な現実が露呈する... 牧場の兄妹がUAPの大捕物に挑む映画
これまで『ゲット・アウト』(2017)や『アス』(2019)等、表向きにはホラージャンルの形を取りながら一貫して黒人の視点から人種及び社会問題を取り上げてきたジョーダン=ピール監督の最新作です。
今回も主役は黒人の若い兄弟ですが、彼らが見舞われる受難を描きつつもどうやらその暗喩的批判の矛先は彼ら自身にも向いているフシが有り…。本筋である正体不明の物体との暗闘と、時おり挿入される過去のTV番組で起きた放送事故とはまったく別個に見えますが、同じ解釈のまな板の上に乗せてみると色々と見えてくるものがありそうです。
父親が急死したことで図らずも広大な牧場を経営することになった兄弟が正体不明の浮遊物体による動物・人間の収奪を目撃し、そこに電気屋の店員や有名な撮影監督も巻き込んでこの怪異をスクープしつつ被害を食い止めるために牧場での大捕物を開始するお話。そこに牧場の隣で西部劇のテーマパークを経営する男性が過去に見舞われたTVコメディーでのチンパンジーによる出演者殺害事故が要所で挿入される、という構成。
序盤こそ正体不明の浮遊物体が巻き起こす動物や人間の取り込みや電子機器異常に怪奇音、謎の飛来物といった怪現象で得体の知れない恐怖を掻き立てますが、中盤に主人公兄妹が一連のチェック&エラーを経てその特性を感得して以降は仲間を交えての件の巨大生物を如何に撮影し、また無力化するかのモンスターアクション映画のスリルにその意味合いが変質していきます。
牧場の隣のテーマパークの写真撮影や道中の車屋のチューブマン等、それまでのなんでもない描写が伏線として終盤の闘いに生かされる展開は丁寧で面白さに貢献してはいるのですが、過去2作品で見られたような正体不明や不気味に対する底の知れない恐怖は本作では控えめです。
よって純然たるホラー映画好きには手放しではおススメできませんが、モンスターと戦うアクション映画、それも限られた人数・道具・ロケーションで巨大な敵に立ち向かうケレン味マシマシのシチュエーションスリラー仕立ての作品が好物な方にはバッチリハマると思います。