劇場公開日 2022年7月22日

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「ユダヤ人があまり出てこない珍しさ」アウシュヴィッツのチャンピオン つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 ユダヤ人があまり出てこない珍しさ

2025年9月3日
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鑑賞方法:VOD

この作品が珍しいところは、ナチスの強制収容所を舞台にした物語でありながら、主人公のテディがポーランド人であることだろう。ユダヤ人でもドイツ人でもないのだ。
強制収容所にはユダヤ人ばかりがいたわけではないということを見られただけでもちょっとした価値がある作品なのではないかと思う。

付けられているマークの色や形で、その者がなぜ収容所にいるのか識別できるようになっている。
本作を観たのが一ヶ月くらい前なので細部を覚えていないが、主人公は職業的犯罪者、つまり泥棒か何かだと推測できる。
なぜそう思ったのかというと、この物語が「盗む」ことの因果を描いた作品だからだ。

物語序盤で、主人公は所長(かな?)の屋敷からリンゴを盗んだ。
そして、テディは盗んだリンゴは病気を患っていた少年に与えた。つまり自分のためではない盗みだったといえる。
その後も自分が得たパンを他の収容者に分け与えたり、テディは自分のためだけではなく行動する。

一方で所長は、盗みは絶対に許さないと強硬な姿勢だ。
しかし彼は、ガス室送りになったユダヤ人の私物からおもちゃを取った。盗んだのである。
そのおもちゃを自分の子どもに与えた。そのせいで子は腸チフス(病名不確か)に感染してし、亡くすことになる。

ここで残念なことは、所長の子と同様に、テディが盗んだ物を与えた少年も亡くなってしまうことだ。
盗んだ当人ではないのにそれを与えられたことで命を失う物語は、なんだか少しやるせない。
彼らには死ななければならないほどの罪はなかったはずなのだ。

少し前に強制収容所でボクシングをするという似たような作品「アウシュビッツの生還者」を観た。
その作品が中々良かったからか本作は響くものが薄く感じた。
つまらないわけではなく、珍しさという意味で一定の価値を感じるが、結局事前知識がなければユダヤ人だと勘違いするだろうし、教え広める効果はない。
要するにあまりオススメできるような作品でもない。

つとみ