劇場公開日 2023年1月20日

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「継承される運命を断ち切り、新たな時代を切り開け」ノースマン 導かれし復讐者 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0継承される運命を断ち切り、新たな時代を切り開け

2023年2月21日
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鑑賞方法:映画館

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北欧のとある王国の王子アムレートは、父親の国王オーヴァンディルを叔父のフィヨルニルによって目の前で殺される。
殺された父の仇、誘拐された母の救出、そしてフィヨルニルへの復讐を誓い、アムレートは1人島を抜け出した。
数年後、復讐に燃えるアムレートはヴァイキングになっていた。
彼は奴隷になってフィヨルニルの経営する農場に潜り込む。
そこで出会った白樺の森のオルガと共に、遂にアムレートは宿命を果たそうとするのだが……

やはりロバート・エガースは最高‼︎
『ウィッチ』『ライトハウス』に続いて今回描くのはハムレットの原案ともなった壮大な復讐譚。
前2作はホラー要素が強かったが、今作は復讐アクション。愛や憎しみなどの心情的なところも深く描かれているので、今までのロバート・エガースらしさを含みながらも新たな面が見られて面白かった。

ハムレットも北欧神話も全く分からないので知った上で観たらもっと楽しめるだろうが、その知識がなくても十分楽しめる。
近親者への恨み、与えられた運命、裏切り、情愛、継承、決着。
復讐モノとして100点満点。
理想と現実の違いに苦しみ、「復讐をする意味」を根本から問われることで、自身の信念が揺らぎ深く葛藤するアムレートの姿は、まさに復讐劇の主人公として相応しい。
それでも復讐の意思を突き通した呪いにも似た運命という何か。
『ウィッチ』でも『ライトハウス』でも、その目には見えない“何か”の力を描くのがとても上手い。
オーディンの力、フレイの力とされた何かによって導かれた彼やその周りの“運命”は、信仰云々の話ではなく私たちの身の回りにもきっと存在する。
神話を取り上げながら神への信仰に留まらない、現実的な昔話。彼にしか描けない世界観。他の題材でも観てみたい。

もちろん物語性だけではない。
ワンカットの撮影手法や時代考証など、様々な演出においてこだわりが垣間見える。
アクションも素晴らしい。
筋骨隆々の半裸男たちが吠え怒り暴れ回る。
血と汗が噴き出る接近戦に燃えないはずがない。
ヘルの門での最終決戦も静かで熱い。
そうかと思えば殺した人間を屋根に貼り付けるといった悪趣味っぷりも光っている。
そして、男尊女卑の世界において一際輝いているのがヒロインのオルガだ。
男性像は野生的に女性像は神秘的に描かれているが、アニャ・テイラー=ジョイの圧倒的ヒロイン感は素晴らしかった。
ニコール・キッドマンの美しい髪と後半のシーンでのインパクトもかなり印象的だが、アニャ・テイラー=ジョイのボディラインは神がかっている。
演じるアニャが素晴らしいのは勿論、主要キャラから脇役に至るまで一切無駄がない。
ほんの少しの出演だったビョークやデフォーをもしっかり印象づけることに成功しているのは監督の手腕以外の何物でもない。

出典となった神話や民話、信仰について知っていないと理解ができないかと危惧していたが全くそんなことはなかった。
親を殺された王子の復讐劇というだけで楽しめるのに、そこに物語性がついて噴火する火山の前で半裸の男たちが野生的に魂を懸けて殺し合う姿を臨場感たっぷりで観れる。
とにかく深くて濃くて熱い物語を見せてもらった。
大満足。監督の次回作が楽しみでならない。

唐揚げ