「欧米人理解のための北欧神話の映画」ノースマン 導かれし復讐者 Naoさんの映画レビュー(感想・評価)
欧米人理解のための北欧神話の映画
北欧神話の世界創生は、三神が巨人を殺害し、その死体から世界、つまり血から海、身体から大地、骨から山、脳髄から雲、頭蓋骨から天を作ったというもの。
日本の創生神話は、陰陽が分かれて天地が生まれ、高天原に神々が現れ、イザナギとイザナミが日本列島や神々を産んだ、というものなので、死体から世界を作ったという北欧神話に驚いた。そこでこの『ノースマン』を観て、欧米人の理解に繋げたいと思った。
物語の舞台は9世紀の北大西洋。映画の中でアイスランド・ロシア・キーウ・スラブ人、という単語が出てきたので、北欧だけでなく東欧も含んだ世界の物語なのだと思う。『ロード・オブ・ザ・リング』や『ゲーム・オブ・スローン』の下地になった世界観のようにも感じた。
王は村を襲って略奪して奴隷を売り払い、王の集落は日本の弥生時代の吉野ヶ里遺跡より小規模で、おどろおどろしいシャーマンの魔術師の前で、王と王子は狼の毛皮を纏って獣の化身になる…。
血の臭いが漂ってくるような野蛮な世界で、文化や教養は感じられなかった。まったく恐ろしい世界である。
9世紀といえば、日本は平安時代の初め。100年前に律令国家になり、シルクロードを通じて唐やインド、ペルシアなどとも繋がり、奈良の大仏を作り、正倉院に御物を納め、全国に国分寺を建立済みであるから、格段の違いである。
まず、日本人の甘っちょろい感覚で、北欧神話文化圏である欧米人の歴史や民族を理解してはいけないのではないかと思った。
もちろん現在のEUを含む西欧人社会は世界をリードする先進国であり、見習わなければならない点は多々ある。
しかし大航海時代〜産業革命〜帝国主義の時代、世界中を植民地にして奴隷貿易を行い、人種差別と民族搾取を行い、公害を引き起こして環境を悪化させたのも西欧人である。その下地には、こうした北欧神話があったということなのだろうか。
日本も鎌倉時代から武士の時代になり、戦国時代は血みどろの世界だった。しかし元寇の時に平安貴族の社会が続いていたら、日本はモンゴルに滅ぼされていただろう。
大航海時代にスペインなどが日本侵略を考えた時も、信長・秀吉・家康らによる統率のそれた軍事力によって阻むことができた。
幕末に西欧列強が日本に迫った時も、腰に日本刀を帯びた武士達の存在が、大きな抑止力となったことどろう。
平和ボケの国や民族は、軍事力に秀でた国や満足に滅ぼされる危険がある。
日本人以外の人々がどのような神話を持ち、どのようなことを考えているのかを知り、自分の身を守る方法を考え、備えておく必要性を改めて感じた。
特に現在のロシアとウクライナの紛争に関しても、日本はただアメリカやEUに追随するだけではまずいと思う。
勇気のいることだが、自らの主権を明らかにし、自国の主張を守らなければならないだろう。
西欧人と日本人は、神話も歴史も世界観もまるで違うのだから。