劇場公開日 2023年1月20日

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「北欧神話の基礎知識がないと難解」ノースマン 導かれし復讐者 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0北欧神話の基礎知識がないと難解

2023年1月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

シェイクスピアの「ハムレット」が題材になっていると聞いて、なんとなく観に行きました。「ハムレット」のストーリーは言わずと知れていますが、デンマークの王子ハムレットが、父王を叔父に殺されて叔父が王位に就き、しかも父の妃だった母が叔父と再婚してしまい、叔父への仇討ちを誓うという物語でした。本作のストーリーの枠組みも、概ねこれに沿ったものでした。

そしてこれは観た後に調べて得た後知恵ですが、「ハムレット」自体がデンマークに伝わる北欧神話を題材にしているそうで、本作は「ハムレット」だけでなく、その元となった北欧神話をもオマージュして製作された作品でした。さらには公式サイトによると、 アイスランドの英雄物語やヴァイキング伝説をもベースにしているそうで、神話や伝説を現代調にした映画だったと言えるかと思います。

本作と「ハムレット」や件の北欧神話の繋がりは、主人公の名前にも見て取ることが出来ます。アレキサンダー・スカルスガルド演じる主人公の名前はアムレート(Amleth)ですが、北欧神話に出てくる王子の名前も同じアムレート。そしてハムレット(Hamlet)のスペリングは、Amlethのアナグラムになっているという訳です。

また、これは北欧神話を意識したものでしょうが、キリスト教が普及する前の北欧において崇められていたという「オーディン」という主神はじめ、「ヴァルキリー(ワルキューレ)」や「ノルン」という神々の名前や、「ヴァルハラ」というオーディンの宮殿を意味する言葉が、一切の遠慮なく続々と出てきます。当然映画の中では注釈がないため、基礎知識がないまま観に行った自分にはこの辺りのことが全く分からず、置いてけぼり感をかなり強くありました。

恐らく西洋文明に属する人々は、基礎教育段階でこうしたことを学んでいるのでしょう。しかし日本においてはそうした分野に明るい人は少ないでしょうから、必然的に本作を理解できる人はかなり限定的ではないかなと、自分の無知を棚に上げて思った次第です。観に行くなら、そうした辺りの基礎知識を得てから行くことをお勧めしたいと思います。

ただ仇討ちの話は古今東西あり、日本においても曽我兄弟の話や忠臣蔵などがあります。親の仇討ちということでは、本作は曽我兄弟の話と類似すると言っていいかと思いますが、とにかく殺して殺して殺しまくる場面が連続する本作は、現代調にしているという部分も多分にあるんでしょうが、流石はバイキング伝説の流れも汲んでいるということでしょう。この辺りは好みが分かれるところですが、個人的にはその荒涼として暗澹たる風景とマッチしていたかなと感じたところです。

あと、少し違和感があったのは、父王が叔父に殺される場面では無邪気な少年だったアムレートが、「数年後」に身長2メートルはあろうかという筋骨隆々なオッサンになっていたこと。20年後というならまだしも、数年であれだけ成長、というか豹変するというのは、ちょっと行き過ぎだったように思われました。

役者陣では、最近いろんな作品で観かけるようになったアニャ・テイラー=ジョイが、アムレートの恋人役という準主役として目立っていました。個人的に彼女の出演作を観たのは3回目でしたが、最初に観た「アムステルダム」ではイッちゃってる役だったものの、「ザ・メニュー」ではカッコいい役。そして今回は「ザ・メニュー」同様のカッコいい役。次は「アムステルダム」みたいな役どころの作品が観てみたいところです。

そんな訳で、観ている段階では置いてけぼり感が強かったものの、事後的とは言えいろんな知識を得られたこともあったので、評価は★3としたいと思います。

鶏