劇場公開日 2022年6月24日

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「厳しい時代の移り変わりを静かに描く作品」ルッツ 海に生きる バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0厳しい時代の移り変わりを静かに描く作品

2022年7月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

静かに時代が伝統を消していく。伝統を愛する人がいたとしても、継承したくてもできない現実。発泡スチロールの箱の中身はとれたての鮮魚から冷凍の切り身へ。多くの人の生業だった魚取りは趣味の釣りへ移っていく。そして、豊かになっていく・・・・。
静かに静かに歩み寄ってくる時代に侵食され、お金で精算されていく「文化」「伝統」。その現実を生活が困窮してくる主人公を通して描いていく作品ではないでしょうか?「ルッツ」はその象徴ではないかな?

主人公ジェスマークの心情や行動はまさに時代の端境期に立たされた人の葛藤でしょうね。見ていて辛くなります。「ただ好きな仕事したいだけなのに・・」が許されなくなってくるなんて。嫁や嫁家族が世間の目の象徴。もうね、あぁ仕方ないよなぁ、それを選ばざるを得ないよなぁ・・・って。僕自身も古い人間ですから日々時代に押し流されていく気がしていますから、見ていて他人事じゃないです。(嫁家族・・・ひどいよなぁ)マルタの素晴らしく綺麗な景色が逆に残酷に見えてきます。

本作は映像で語る場面がいたるところにありまして、それも「そっと語りかけてくる感じ」がよかったです。窓口に相談に来ている他の漁師のショット、ラストの漁師達の人数で表す現実や、釣り人と漁船のワンショットでジェスマークの心の迷いを表しているのかなぁ?とか。

やりたいことやりながら、愛する者達と生活し続けるって、あたりまえを求めてるだけなのにね。変わらなくて良い、変わらなくて十分って思っている人達に時代は資本主義世界は容赦ないのかもね。

・・・世知辛いな、世の中は。

バリカタ