「今年の最高傑作であるのみならず人生ベスト5に食い込む勢い。」雄獅少年 ライオン少年 mark108helloさんの映画レビュー(感想・評価)
今年の最高傑作であるのみならず人生ベスト5に食い込む勢い。
この作品は一見するとピクサー調であり、ストーリーはカンフーモノをベースにした貧富の闇をあぶりだす単純なサクセスストリー、どこか既視感溢れる作品と言うイメージである。しかし制作国を忘れてみる限り極めてその完成度は高く、2Dアニメではなく3Dで勝負してこのレベルの高さを行き成り見せつけられるのは強烈である。日本アニメの原点は実は中国アニメであると言うのは識者の間では既成の事実である。ディズニーを手塚が模してたと言う話しは有名だが、実はそれ以前に手塚のアニメ熱に火をつけたのが中国の万籟鳴監督によるアジア初の劇場用長編動画作品🎦『西遊記 鉄扇公主の巻』(中国、1941年、73分、モノクロ)であるという事は意外と知られていない。これはディズニーの🎦バンビや🎦ピノキオに先んずること10年前の出来事である。アメリカ公開は40年代でも日本公開は🎦バンビで51年が一番早い。そこから中国のアニメは日本と交流しながら2Dアニメを上海中心に発展させるが、国内の表現規制や日本の下請け等の劣悪な環境がたたり衰退していく、一方で国策として理系を中心に多くの若者をアメリカに送り出し、さまざまな即効性のある技術と知識を習得させて好待遇で迎えた北京は、皮肉なことにアニメも3Dアニメを中心とした拠点として多くの才能を集めるに至る。ラップ調のオリジナル中国歌詞に載せた音楽と現実を遥かに凌駕する見事な背景映像に、まだ少しぎこちないキャラクターの動きは、後半に向けて作り手の手を離れまるで絵そのものが精霊の息吹を受けてまさにアニマのごとき躍動する。このシンプルながらも普遍的で共感を呼ぶストーリー展開と中国特有の文化的素材をテーマに新しいアニメ言語で一気に打って出て来た。それは最後に種明かしするが潜在意識に根付くまでに浸透したある物語へのオマージュとなっているからである。これはまさにピクサー製作のフルCGによるアニメーション🎦Mr.インクレディブルに匹敵する作品に我々は出会ってしまったのである。ブラッド・バード監督と違い今回のソン・ハイペン監督のデータがあまりに少ないのがつらいが、明らかに日本の天才主導型のアニメ産業を飛び越えて中国国内でもアメリカ本土でも通用するものが作られ始めた中国アニメ市場。日本のアニメは後50年は持つとはいえ、この中国からの猛攻に耐えれるのか恐ろしく不安になるほどの完成度で完全に打ちのめされた作品である。そして最後に指摘しておかなければいけない既視感は🎦ベスト・キッドでも🎦カンフーパンダでもなく、実は根底にある物語の骨格が我々には気付かれないように📖西遊記へのオマージュとして隠されている事実である。3DフルCGと言う極めて理系で工学的な技術によって作られた物語の格子に西遊記という普遍的な物語の王道を敷き詰めた文学的なソン・ハイペンの才能に、改めて驚愕するのである。