「久々に男と女の腐れ縁という業を描く日本📽️の秀作。主演二人が名演。特に寂聴さんが憑依したような寺島しのぶの演技には舌を巻く。男としては、鰻を食べながら涙する豊川悦司の表情に涙が溢れた。」あちらにいる鬼 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
久々に男と女の腐れ縁という業を描く日本📽️の秀作。主演二人が名演。特に寂聴さんが憑依したような寺島しのぶの演技には舌を巻く。男としては、鰻を食べながら涙する豊川悦司の表情に涙が溢れた。
①戦後の日本映画の黄金時代に『浮雲』という、腐れ縁で繋がったどうしようもない一組の男女が流されて行く姿を描いた傑作がある。時代も背景も全く違うが、令和版『浮雲』というところか。
②最初に二人でタクシーに乗っているシーンで、白木がみはるの帯を誉める。これだけでこの後白木とみはるの間に男女の関係が生じることを暗示してそこはかとない官能が匂い立つ。運転する付き人も「またか」と思ったかどうか分からないが反応する。「帯を解く」ということが昔の日本でどういう意味を持っていたか知っている人にはわかるだろう。上手い導入部だ。さすが荒木晴彦の脚本。
③白木が不倫をする度に(しかもみはると関係しているときにも二重不倫をする)綿矢りさの『嫌いなら呼ぶなよ』に出てくる不倫男とそれを糾弾する女性達と一緒に糾弾するその夫達のことが思い起こされてならなかった。不倫男もどうしようもないナルシストで小狡い男ではあったが「自分はそういう人間だと自覚しているし、それをしないと自分ではないと思うので悪いこととは思わないし、だからどうしても止められない」というところはわかる気がした(私も世間の訳知り顔ってあまり好かんので)。一方、糾弾する側の妻とその夫達と同じように考える人達にとってはこの映画には拒絶反応を示すだろうけどなぁという事も。
④演出も大変しっかりしている。廣木隆一監督作品には『ヴァイブレータ』には感心したが(『ここは退屈、迎えに来て』もなかなか良かった)、最近は若者向けの映画ばかり撮っていてちょっと軽んじてました。見直した。しかし元ピンク映画・ポルノ映画の監督達ってみんな映画的演出が巧いというのは面白い。
⑤白木のモデルとなった井上光晴は、最近観て襲撃を受けた映画『地の群れ』の原作者だった。What a coincidence ! みはるが男としてだけではなく、同じ作家として一目置いていたのもわかる気がする。でもこういう人だったんだ。
⑥“どうしようもない男だけど愛しくて仕方がない”という気持ちは、ハッキリ言ってよくわかる。本当に“恋”をした人間には誰でもわかると思う。ただ、普通は世間とか他にも色んな事が気になって一歩を踏み出せない、一線を渡れない。しかし、みはるはその一線を易々と越える強さというか価値観がある。そして白木とは愛欲・情欲だけではなく、どうしても切れない糸という縁を持ってしまう。
それでも、いつかは切らなくてはならない、ということも理解している。そこで選んだ道が出家、理由として“どちらかが死ななければ終わらない。あなたには死んで欲しくない。だから私が死ぬの。出家って生きながら死ぬようなものでしょ。” 出家とは本来そういうものではないし、実際には他にも理由があったようですが、この📽️ではるみにそう言わせたのは、“それほど好きなのだ”ということを強調するため。
そして、鰻を一緒に食べながら、妻の「あの人は出家したからもう鰻は食べられないのね」という一言に嗚咽し泣き出す表情を撮し続けることで、白木も同じ気持ちだったことを観客に伝える映画的演出。
⑦寺島しのぶの演技は久々に日本映画で観た“これが演技”というもの。『愛の嵐』のダーク・ボガート、『アマデウス』のF・マーリー・エイブラハムや『愛と喝采の日々』のアン・バンクロフトが見せた演技と比肩出来るだろう。
⑧豊川悦司も“どうしようもない男”の可愛さや色気を漂わせながらしっかりした人物像造形を見せる。
⑨広末涼子は、さすがに寺島しのぶと豊川悦司の横では分が悪いが、白木の言葉を真に受けて家出して家に押しかけてきた勘違い女を白木が慌てふためきながら外に連れ出す一幕を横に平然とお茶を飲んでいるシーンはなかなかよかった。また、歳をとってからの演技もよろしい。
実は三者の中では一番難しい役柄でそれだけやりがいのある役なのだが、そう思い至ると、同じ様な題材の『火宅の人』で同じ立場の役を好演したいしだあゆみの凄さを今更ながら思い出してしまう。
iwaozさん、今晩は。共感ありがとうございます。それと役者名の間違いの御指摘大変有難うございます。いや、お恥ずかしい😅やはり書く前にちゃんと調べるべきですね。薄い記憶に頼らずに😢早速訂正させて頂きました。今後の教訓と致します🙇“Fahrid”なんと発音するんでしょうね。おっしゃった通りファフリッド?☺️サリエルが偶々モーツァルトの書いた楽譜を見たときにサリエルの心を次々とよぎった感情を見事に表した顔面演技には“何と言う演技!”と感嘆しました。
非常に共感、あと勉強になります。
感謝です。m(_ _)m
「アマデウス」のサリエリは本当に凄かったですね。役者名はF.マーリー.エイブラハムでは?
Fはファフリッド?f^_^;