「私はマジョリティ感覚とズレている人らしい」ゴールデンカムイ 黒い肉球さんの映画レビュー(感想・評価)
私はマジョリティ感覚とズレている人らしい
実写版配役が発表されてからずっと観ようか迷っていた映画。理由は原作のファンで実写版キャスト(主に主人公)が自分のイメージとかけ離れていたから。公開からしばらく経ち結局観に行ったのは思いの外ネットでの評判がよかったことと、たまたま原作者様描き下ろしの入場特典がもらえたから。前者は自分の勝手な先入観で敬遠しているのはよくないだろうと反省したからだ。
以下ネタバレあり感想(あくまでも一個人の感想です)
まず肝である趣旨の捉えかたがもう違うのでは?
監督さん始めスタッフの皆さんはこの作品を「アクションもの」だと捉えているのかほぼアクションシーンばかりだったが、そこからもうすでに間違っているというかズレているというか。続編を視野に入れているらしく初回のこの映画は主要登場人物の顔見せとアクションで終わった。
ガッカリだった。
アクションがメインじゃない。アクションシーンは肝あってこその副産物だ。
制作陣が原作を読み込めていないからか、主人公俳優はアクションの特訓を頑張ったそうだがそれはそれ。まず杉元という人物をもっとちゃんと理解するための時間を確保してほしかった。キングダムの主人公とどう演じ分けているというのか。衣裳が変わっただけ?
杉元のオファーを受けるということは相当な覚悟が必要だと思うのだ。
途中主人公の回想シーンで戦争に行く前の主人公が出てくるシーンがある。戦争に行く前と行った後での演じ分けが全然できていない。これが一番ガッカリだった。戦争という、人を殺しても逮捕されない、むしろ殺せば殺すほど称賛されるという狂った世界線に足を踏み入れてしまった男の苦悩が「汚い仕事は俺がやる」とアシリパさんに言うに至った所以だろう。人を殺すということは倫理的だけでなくヒトを変えてしまう、それを抱え倫理や理性と日々葛藤しながら、迷いながら、戦争の味を忘れられない狂った人々と戦っていくのが杉元だろう。だからこそアシリパさんとのほっこり食事シーンが光るし読者も食事シーンを見るたびアイヌ文化へのリスペクトもさることながら「普通の」生活を杉元に与えてくれるアシリパさんに感謝する。杉元がずいぶん年下のアシリパさんを絶対に「さん」付けで呼ぶことはそういった尊敬の表れだろう。ゴールデンカムイはアクションシーンよりこういった丁寧に描かれた主人公の心情、アイヌ文化、カムイを奉り、私利私欲で自然から必要以上にいただかない慎ましい暮らしぶりが土台にあっての刺青人皮の謎、金塊はどこに? というギャップあるストーリー展開が魅力なのだと私は思っていた。
誇り高いレタラが軽く扱われすぎだったのもガッカリだ。あれなら出してほしくなかった。
今作品はこれから主要となるであろう登場人物を数秒程度ずつ映して、大御所の館さんとあとは主人公のアクションばかりで、いくら「原作と映画は別物」だとしても、こんな形でなら無理に実写になんてしないでほしかった。原作へのリスペクトが全然感じられない作品だった。どうして高評価なのか私には全くわからない。原作の上澄みをすくって寄せ集めているので(だから説明不足で「?」となるシーンも多々あるにせよ深く考えなければ)原作を知らないお客さんは楽しめるのかもと思う。